暇潰しで人を潰すな



「この乱戦で催涙ガスなんか使うなよ」

「まさか。ただの虚仮威しです」

 バン! と腹に響く音で何かが爆ぜる。音だけはダイナマイト級だがあくまで音だけのようだ。彼女が討ち入りのサムライ共に何かを投げたと思えばこれだ。極力殺さず無力化してェんだろうが室内でそんなもん使うな。元々殺人を恋の終着点だの何だのと特別視する女だ、バカスカ殺すタイプじゃねェし。露払いをしてくれるのは有り難いがもう少し相談をしてくれよ。

「あくまでメアリーズは片手間です。戦わず横にいるだけなのも邪魔でしょう? そんなお姫様みたいな挙動は苦手ですし」

 お前メアリーズじゃねェのかよ、とこちらが言う前に彼女は答えた。相変わらずおれの邪魔にならないような位置取りをして、軽快なステップで。本当にワノ国のニンジャか何かだったりしそうだよなお前。

「あいつらを追う。情報送っとけ」

「了解です」

 麦わらの一味の二人に狙いを定める。狙撃手らしい男と、女。一発こっちに喰らわせるくらいの気概はある奴だ、追いかけて仕留めておいて損はないし、そもそも喧嘩を売ってきた奴をみすみす見逃してやるほど優しくもない。姉貴もそのつもりだろ。おれたちはそんな甘い世界で生きてねェんだ。

「情報追加。狙撃手は二億、女は六千六百万。航海士ですね」

「へェ」

 驚いた。言動より遥かにお高い首をしている。口角を舐める。

「武運を」

 じゃあお前下がっとけと告げる前に彼女はそう言って遥か後方へ飛び退った。この数刻で随分弁えるようになったならしい。僅かであってもサムライの邪魔が入る方が困るし、彼女も有象無象相手であれば死なない程度にやるだろう。おれとしてはいつものように天井裏に潜んでメアリーズに徹してくれた方が助かるんだが、彼女がそれを良しとするわけもなく。おれを殺すなんて宣うんだから、かすり傷なく乗り切るくらいやってくれなきゃ困るんだけどよ。

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