殺したいほど憎い、私が生きる理由



「お前は撤退しろ。自分の力量くらいわかるな」

 ページワンくんは静かに、唸り声を混ぜながら言う。でも、なんて反論の余地は全くない。彼が即座に完全に恐竜になったということは、侵入者がかなりの実力であるということ。しかもうるティさんに吹っ飛ばされた侵入者に対してその反応である。私がそばにいたところで何の役にも立たないどころか邪魔、むしろ余波で簡単にダウンしてしまうはずだ。物分かりの悪い女ではない。わかりました、とだけ告げてその場を後にする。

 物分かりは良いけれど、納得できるわけじゃない。彼が私をそばに置いておきたいのと同じように、私だって彼の近くにいたいのだ。残念ながら私にはそこまでの戦闘力がないので飲み込む他無いのだけれど。彼の隙を狙うまたとないチャンスだ、逃すには勿体無い。本来ならば「殺意なんか二の次で彼の隣にいたいと思った」なんてモノローグでも挟めば彼からのカワイイ評価が爆上がりしただろう。でも私の愛情表現はこういう出力しかできない。

 私はページワンという男を殺したい。殺したくて仕方がない。憎悪ゆえではない、ただただ愛おしい。彼の最期を独占して、彼の人生全てを私に塗り替えてしまいたい。儚い恋は殺人というスパイスで永遠にできるこんな理論を口に出せば彼は「イカれてる」なんて真っ当なコメントをするだろうな。畢竟、私は殺意ほど強く強大な恋心を彼に抱いているのだ。

 一点、たった一点彼を憎んでいることがあるとすれば彼が強すぎることだった。彼が強すぎるばかりに私は彼を殺せない。おかげで私は殺意と恋愛感情以外のものを彼に抱かざるを得ない。簡単に殺せる男だったら良かったのに。そうすればさっさと来世に期待できた。まあ、彼が生きる理由になってしまっているこの生き方も決して悪くはないのだけれど。

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