「僕を信じない君」を信じてる



 こつこつとブーツの音を板張りの床に響かせる。今日は火祭り、金色神楽当日。本来ならば宴に明け暮れるはずだったのだが、急遽カイドウ様の息子、ヤマトの捜索をすることになった。まあ別にそれは良い。ここらで失敗を挽回しておくのも手だろう。それに大看板への挑戦権に興味がないと言えば嘘になる。

「メアリーズにも引っかかってないみたいです、別れて探しましょうか」

 隣を駆けながら言う彼女は、残念な素振りを見せるでもなくそう報告した。そういやバオファンと仲が良いとか言ってたっけな。スマシで連絡をとったらしい。まあヤマトに関しては目撃情報を聞いてからその場所へ向かったところで捕えられはしないだろうが。それができるなら幹部が駆け回って探したりもしない。

「いや。一緒でいい。定期的にメアリーズに打診しろ」

「……わかりました」

 おれの返答が意外だったのか、彼女は一瞬返事を戸惑った。本来人探しなら二手に別れた方が良い。だが前述の通り相手はあのヤマト。万が一彼女が一人で遭遇したところで足止めできるわけがない。

「いいなー! あちきもぺーたんに『一緒でいい』って言われたいでありんすー!」

 最低でもこんなことを言っている姉貴くらい強ければ別に一人で行かせたんだけどよ。姉貴くらい強い彼女、できれば想像したくねェな。マジで命の危機なんだわそれ。

「姉貴は一人で大丈夫だろうが! コイツは弱いから」

「『おれがいないと駄目なんだ』ァ!? そんなキザな子に育てた覚えは無ェ!」

「そんなこと言ってね、うお」

 妖怪の如く飛びついてきた姉貴のせいですっ転びそうになりながら彼女に目をやる。なんだ、結構嬉しそうに笑ってんじゃねェの。

「私のこと信じてない君ほど信頼できるものはありませんね」

「ヒヒ、んなことはヤマトを足止めしてから言え」

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