なまくらの狂気、業物の凶器



「お前本当に武器の手入れ好きだよな」

 鼻歌でも歌いながら刃物を研ぐ彼女に、そう声をかける。ここは彼女の居住スペースのはずだが、最早工房と言った方が良いような気がしてきている。工具の類からハケに砥石、乳鉢に乳棒。最後二つに関しては彼女がおれのために作る毒薬のためだけか。畜生、手料理よりよほど手の込んだ手作り品でなんでこんなに嬉しくねェんだよ。よくこんな場所で眠れるな。

「今回は厨房の包丁です。もうすぐ金色神楽でしょう」

「あァ、もうそんな時期か」

 年に一度の金色神楽。この時ばかりは無礼講と下っ端までかき集められ鬼ヶ島で宴に興じるのが常だった。身体の大きい奴らばかりの幹部連中も全員集まるとなるとそりゃあ厨房は大忙し、せめて備品を万全にしておきたいんだろう。なぜそれを彼女がやっているのかは謎だが、まあ人の良い彼女だから二つ返事で引き受けてきたに違いない。料理人連中も戦闘員に頼むより彼女の方が話しかけやすいに決まってる。

「あ、そうだ。聞いとかなきゃ」

「何だ」

「鋭利なやつですぱっと一思いに逝くのとノコギリないしなまくらでゆっくり死ぬの、どっちがいいですか?」

「今の流れ絶対に金色神楽のことだったろ……!」

 用意しといた方が良い料理とか、酒の種類とか、そういうことを聞く流れだったろ今のは。彼女の突飛具合には慣れてるからまあいいとして刃物の整備をしながら聞いてくるなよ。これ素直に答えてたら飛び掛かられてたやつか? 受け流すのくらい簡単なんだけどよ。

「……刃物じゃないとダメか?」

「一番用意しやすいんですよね。ほら、弾切れとか心配する必要もありませんし」

「おいおい考えとくわ」

 こんな会話続けるわけにいかねェ。僅かにでも殺されることに対してプラスの言葉を発すれば彼女は喜び勇んで飛びかかってくる。そのまま抱き竦めてやってもいいんだが、それをやると少々血生臭い情事になりかねん。こんな昼間っから盛るのもどうかって話だ。

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