水族館で君探し/アオハル
「イルカショーとか見なくていいのか?」
水族館、大水槽の端っこに座り込んだ彼女にそう声をかける。一応デートという名目で来ているのだが、これ本当に定番のデートスポットなんだろうかという疑問が浮かばないわけではない。デートといえば互いしか見えていない二人がキャッキャするイベントのはずだ。それがどうだ、彼女はじっと大水槽の隅にいるウツボと睨めっこをしている。いや別におれだけを見てろ(囁き)なんてクサいことするつもりもないんだけどよ。
「おーい、聞こえてるか」
こんな彼女を見るのは悪いことではない。彼女の横顔を見る機会なんざあまりないし、なんだかんだ楽しそうだし。彼女を誘った手前、彼女が楽しそうならそれでいいのだ、極論。
「君に似てます」
「……ウツボが?」
思わず聞き返す。確かに歯だけに注目すれば似ているのかもしれない。ギザギザだし。だが……言うほど似てるか?
「おれこんな間抜け面してるか」
「かわいいじゃないですか」
「かわいいかァ?」
ぽかりと口を開き鋭利な歯を覗かせるウツボを彼女の横から眺める。つぶらな瞳をしているとはいえ、どぎついカラーリングにぶよぶよとした体表は決して可愛いとは言い切れない。彼女の価値観は独特なのでそこは飲み込むとしても、それと同じ系統の可愛さなのか、おれが。というかおれをかわいいと思ってんのかこいつは。
「コワモテだけどどこか可愛くって、岩場に居てダウナーな感じでてますし」
ふぅん、と聞き流す。別に可愛いをウリにしてるわけでもなし、彼女にそう言われるのは心外だが誉められて悪い気はしない。どうせならかっこいいだの頼りになるだの言われたいが、彼女がこちらの思っていることをそのまま言ってくれるわけがない。
「私は何に似てますか?」
「…………ハナミノカサゴあたりだろ」
「お、嬉しいですね」
ところで魚に例えられて嬉しいのか?
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