試合に負けて勝負にも負けた



「三つの箱があります」

 じゃん、と彼女箱を並べる。また面倒なことを始めたなと思いながら適当に相槌を打った。流石にこの箱に収まるもんで殺されるほどヤワな身体はしてない。

「この中に一つだけ当たりがあります。当ててください」

「ハズレを引いた場合は?」

「別に何も。当たりの賞品を貰えないだけです」

 ならいいか。ペナルティで毒薬イッキだの海に飛び込めだの言われたらどうしようかと。最近の彼女はおれを殺さないようになったといえど「殺す素振り」だけはしっかりするしおれを殺すことをまだ諦めてないんじゃねェか(死ぬ直前まで待つとは言ってたが)と思うことさえある。まあ彼女のことだ、当たりですらこちらの命に関わるものの可能性あるが。

「あー……真ん中」

 あえて見聞色は使わない。こんな遊びに本気を出すのは流石にルール違反だろ。あと別に理由はない。ただの直感だ。ヒントも何もないのに推理とかできるわけもなし。

「ふむ。では残り二つのうちはずれの一つを開けます」

 彼女が箱を開く。紙でできているので当たりも流石に危険物じゃないらしい。

「選び直しても良いですよ、どうしますか」

 にこにこと笑いながら彼女が言う。あーこれそういや彼女が読んでた本に載ってたな。どんなの読んでんだと数ページ捲ってすぐに閉じたので詳しいことは知らないが。にしても数学に関することだったから大丈夫だと信じたいが。

「そのままでいい」

「……残念、ハズレです。」

 彼女は得意げに言う。まあそれくらいどうだっていい。優越感をおぼえる彼女はかわいいので。

「ちなみに当たりはこれでした」

 彼女が別の箱の中から取り出したのは……カプセル剤か。案の定当たりと言って毒薬を飲ませるつもりだったらしい。

「夕飯に仕込んだ毒の解毒剤です」

「は!?」

 馬鹿野郎と彼女の肩を掴んで揺すぶる。「安心してください。獣態になれば致死量には到底なり得ません」などと抜かす彼女……クソ、これ試合にも勝負にも負けてんじゃねェか!

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