負け犬の輪唱
「待ってください、本当、本当に? もう一回やりましょう」
こいつ案外負けず嫌いだよな、と思いながら盤面をリセットする。暇潰しに会話するのも飽きたので、彼女がどこかから持ってきたオセロをやっていたところだった。だったのだが。
「今度は私が白です」
息巻いて見せるがしかし、彼女はあまりにも弱すぎる。弱いとかいうレベルじゃない。なんなら途中で完全に手詰まりになるので強くもないおれが手加減をしてやっている始末である。ルールを知っている以上これまでやったことがないなんてことは無いはず、と思いたい。
「ヒヒ、勝つまでやるつもりか?」
まあでも、彼女が真面目に悩んでいるのも珍しいのでここぞとばかりに揶揄ってやる。彼女よりもおれの方が圧倒的に強いので常々揶揄われてやっているのだが(得意げな彼女の表情は割と可愛いので、彼女にいいように言われて悦んでいる変態ではないことは言い張っておきたい)、おそらく彼女とおれの実力差がフラットになるだろうと踏んだゲームでこういう結果になるとは思わなかった。あれか、ボードゲーム全般弱いのか。
「次は勝ちますからね、絶対に」
「それ聞くの今日で三回目だぞ」
あんだけ絡め手中心の戦法をとれる割にオセロが苦手ってのは面白いな。片っ端から勝負持ちかけてみるか。そういやカードゲームはどうなんだろうな。ポーカーフェイス得意だし、平然と嘘を吐ける彼女が弱かったらそれはそれで面白い。後でやってみるか。
「……っじ、実は君に負けてやってるんですよ。いつも私が揶揄ってばかりでは可哀想ですからね」
「そうかよ」
彼女がそんなことを言い出すということは、早くも負けるビジョンが見え始めたということか。いや本当に弱いな。
「……違うゲームするか? トランプもあるし」
「気遣い無用です」
今やっている試合の途中放棄を提案したのに、彼女は強情にも続行を宣言する。悔しがってる彼女もなかなかレアだ。彼女がおれを揶揄うのってこんな気持ちだったのか。
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