醒めない夢を冷めない愛を



 首を、絞められている。ずしりとのしかかるのは彼の重さ。人間態で、マスクすら着けたままの彼の目だけがぎらりと暗い中で光る。揺れているあたり行燈の灯りだろうか。身体はしっかり柔らかい中で沈んでいるので床の上か。

 メロウで耽美的、エモーショナル。そんな最高のシチュエーションで思う。彼は一体どうしたのか。時々戯れで恐竜の爪を首に押し当ててきたり「噛み砕いちまうか」などと笑うことはあっても、実際にこうも明確な殺意を向けてくることはない。というかむしろ彼は必要以上に私に触れたがらない。動物系の能力者なのでうっかり力が入り過ぎることがあるかららしい。だから全く、不可解だ。首なんか絞めてうっかりへし折ってしまったらどうするつもりなんだろう。彼は生きている私が好きだったはずなのに。性癖でも拗れたんだろうか。

 ぎゅうと圧迫感が強まる。気道でなく頸動脈を絞めているのか、なるほど。徐々に酩酊感が出てきた頭で無駄な考察をする。殺人ではなく快楽が目的なのか。おかしい、窒息性愛持ちなんて言ったこともないし、そもそもそんな性的倒錯は抱いていない。

 彼を見上げる。アシンメトリーな彼の前髪がカーテンのようにこちらの頬をくすぐった。やけに熱を孕んだ目をしている割には感情が全く読み取れない。

 こちらの視線に気付いたのか、彼はこちらの耳元に口を寄せる。低く、柔らかく甘い声。ああそうか、これは夢だ。彼は情事の最中であっても酔ってもこんな声なんか出さない。あれで恥ずかしがり(というとえらい目にあうので言わない)な彼が、こんな私の理想をするわけがない。夢だ。そもそも本気でこちらを殺すつもりなら人間の姿ではないはずだし、私を殺すのに彼があんなに恍惚とした表情をするわけがない。

 気付いた途端、世界が薄れ始める。もう少し気付かないふりをして楽しめばよかったなあとは思わない。絶対にあり得ない彼なんか面白くもないに決まっている。ぱちりと瞼を開いた。同室で寝息を立てる彼を見る。さて、久しぶりに寝込みを襲うとしましょうか。

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