銃とバレッタ
「やる」
ごく小さな包みを彼女に投げ渡した。中身はなんということの無い髪留め。遠征中に立ち寄った島でたまたま目についただけのもの。別に高い宝石が嵌まってるだの由緒正しい工芸品だのということもない。こういうのは自分で選んだほうが良いのは重々わかっているんだが、プレゼントの一つもしないのは恋人としてどうなんだ、とふと思い立ったのである。ちなみに今日が彼女の誕生日でも何かの記念日というわけでもない。
「わ、ありがとうございます。ちょうど探してたんですよね、バレッタ」
彼女が喜んでいるのでとりあえず一安心。最近髪留めを失くしたか壊したかしたようで時折髪を邪魔そうにする仕草が増えていたし、おれの見立ては間違っていなかったらしい。一方でアクセサリーの類で素直に喜んでくれる女かどうか怪しかったので、これで「ありがとうございます」なんていつものローテンションで返されてたらそれなりにショックを受けてたぞ。
「てっきり武器の方が喜ぶと思ってたが」
「バレッタと弾丸で掛けてます?」
「っふ、いや?」
上手いこと言うなこいつ。いやそんなことはどうでも良い。隙あらば武器になりそうなものを探しているような女である。日に一度の殺人未遂をライフワークにしているんだからそう思うのは必然だろ。
「君に貰ったもので君を殺すのも悪くないですけどね。私だって普通の人間ですよ? 大好きな人に何か貰ったら嬉しいに決まってるじゃないですか」
「マジか」
だってそうだろ。「永遠に恋をしていたいので大好きな貴方を殺します」なんて言ってくる女が普通の感覚持ってたらちょっと驚くだろ。お前も何故? みたいな顔をするなよ。自分の普段の言動を振り返れよ。
「それに。髪留めをくれたということは『その髪を乱す』という意思表示でしょう? 楽しみにしています」
にっこり。今日一番の笑顔で行った彼女。そういえばこいつ自分が殺されるのもそれはそれでアリ、みたいな奴だったな。そんなにお望みなら今晩にでも好きなだけ乱してやるっての。
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