その心臓はあたくしのもの



「……何してる」

 いきなり抱き着いてきた挙句微動だにしない彼女にそう問う。彼女の唐突な行動にはまあまあ慣れてきた。六割くらいは。ただのハグかと思わせて安心し切ったところを一撃かますつもりか。或いは「ページワンくんの恋に付き合っている」というやつか。どちらでも良いが探りを入れる。なんだって安心して恋人と抱き合えないんだって話。

「静かにしてください。君の心音を聞いているので」

 じゃあ先にそう言え。突飛な行動をしたのは彼女の方だというのに、おれの方が悪いことをしたみてェだろうが。にしても不可思議な行動だな。医療班に何か聞いたんか、それとも長期的殺人プランの調査か。

「いつかこれを止める日が来ると思うと興奮して興奮して」

「こわ……」

 数々の暴挙を時に受け流し時に享受してきたおれだが、流石にこれにはドン引きである。億超えの首でも流石に恐怖する。

「そんな私を好きな君にも責任はありますよ」

「絶っっっっ対に無ェよ……」

 抱き着いたままこちらを見上げる彼女。そのツラでも見過ごせないだろこれは。彼女を好きになったのは事故みたいなもんだし、そもそも殺人衝動を除けば彼女はもう超絶最高な女だ。そこを「お前にも責任がある」と言われたらんなもんあるかよと言いたくもなろう。

「あ、君も私の心音聞きます? いつかこれを我が物にできると思うとかなり最高な気分になれますよ」

「全世界の人間が自分と同じ性癖だと思ってる?」

 こちらの肩をぐいぐいと押す彼女。屈め、もしくは座れということか。素直に座ると、彼女はこちらの膝の上に乗り、ぎゅうとこちらの頭を抱きしめた。

「ね?」

 何がね?なのかは理解しかねるが、この状況がまずいことだけはわかる。確かに彼女の心臓の音は聞こえている。聞こえているのだが、問題は頬に押しつけられる柔らかな感触である。健全な男子がそんなことされて平静を保てるか? そんなワケねェだろ。

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