恋や愛なんて糞食らえ



「誰の歌だそれ」

「さあ。どこかで聞いて耳についちゃっただけなので」

 遠征途中、退屈な船室内。彼女が丸窓から海を眺めながら口ずさむ歌がふと気になった。口ずさむにはアップテンポがすぎるメロディに、毒気の強いうろ覚えの歌詞。彼女は覚えがいい。酔っ払いの鼻歌か、どこかの歌手の曲か、ああそういやこの前加入した奴が音楽家みてェなことやってたっけか。人の多い海賊団だ、音貝を持っている奴も少なくないし、最近は電伝虫がどこかの電波をキャッチすることもある。まあとにかく、彼女が覚えてないんじゃおれが彼女の歌の詳細を知る由もない。

「……流石に私作詞作曲はできませんよ」

 ふぅん、と適当に頷きながら彼女を見ていたのが邪推に取られたらしい。別にそんなこと考えちゃないが、正直彼女なら出来そうだなと思わなくもない。秀でたものは無い代わりにオールマイティな方だし。

「でもまあそうですね、もし書くのなら……うーん、恋も愛も全否定したいですね」

「へェ?」

 頭蓋に生クリームでも詰めているかのような言動を時折する彼女だ、意外だった。

「恋愛感情なんかなかったらここまで面倒じゃなかったでしょう? 君も、私も」

 ああそうか、と内心膝を打つ。そもそもおれを好きにならなきゃ彼女は殺意なんか抱かずに済んだ。おれだって彼女に執着されなかっただろう。

「おれは案外気に入ってるぜ」

 だが。そんなデメリットがあってもなお、その代わりに彼女を知らないままで生きるのは、あまりに無機質だ。彼女と出会えるのなら毎日殺されかけるくらい朝飯前だ。いや無いに越したことはないが。

 おれの言葉に彼女は瞬きを数度。そしてにっこりと嬉しそうに笑って口を開いた。

「君は存外マゾヒストですか?」

「せっかく良い感じの雰囲気にしたのによ……!」

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