砂嵐が止まない
「お前も風邪引くんだな」
「私のこと何だと思ってるんですか」
布団を被って額に氷嚢を乗せた彼女は、苦しそうな表情とは裏腹にそう饒舌に答えた。本当に熱があるのか疑心暗鬼になる。
「熱っ」
「熱あるって言ったじゃないですか」
思わず触れた彼女の頬は人体がこんなにも熱を発するのかと思うくらいだった。余程重症らしい。こんなに熱があってよく喋れるな、お前。
「……何か欲しいモンあるか」
あまり風邪を引いたことはないが、幼い頃の記憶を辿ると果物やアイスクリームあたりが食べたくなっていたような気がする。というか姉貴にその類のものを無理矢理にでも食わされていたというか。あまり厨房には出入りしていないが、料理人たちも彼女のこととあれば少しくらい食料を分けてくれるだろう。
「ページワンくん」
「おう」
「君。君がそばに居てくれたらそれで良いです」
……調子が狂うな。彼女のことは常人だと思っていないので、こういう「普通の」言動をされると参ってしまう。
「頭の中が。熱のせいでかき混ぜられててノイズが多くて。砂嵐みたいにいろんな事象が飛び込んでくるから。極力君のことだけを、考えていたいんです」
「……わかった」
彼女の横たわるベッドのそばに椅子を置き、腰を下ろした。饒舌ではあるが、彼女の言葉は普段よりも明らかに抽象的かつ冗長だ。ここは素直に従ってやるべきだろ、どうせやることもなし。
「普段は君のことだけ考えてるんですよ。君はかっこいいなとか。獣態のページワンくんはやっぱり生肉を食べるのかなとか。明日君をどうやって揶揄おうかとか。今までのプランニングと健康状態を鑑みて次はどんな殺し方をしようかとか」
ろくなこと考えてねェなこいつ。やっぱ彼女が並大抵の思考をするのはごくごく稀なことらしい。そう思って構わんだろ。
「喋らんでいい。寝ろ」
「ふへへ」
気の抜けた笑いをして、彼女は目を閉じる。ここで額にキスしてやってもいいかと思ったが後々絶対キザだの何だのと言われるに決まってる。自分の普段の行動を恨むんだな。
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