正義を殺す僕を、どうか悪と呼んでくれ



「海兵が来やがったな」

「四皇幹部相手でも来るんですね」

「あいつら隙あらば首取ろうとしてくるからな」

 彼女は呑気に言う。ったく、自分が海賊って意識あるのかこいつ。軍艦一隻、大将でも乗ってない限り問題はないか。軽く哨兵を叩いて逃げるのが良いだろうな。

「走るぞ、乗れ」

「……お言葉に甘えて」

 獣態になったおれの背へ軽いステップで飛び乗った彼女は首元に座った。背中の帆はどうしても邪魔になるし乗るならそこか。頭でも良かったんだが、そこまで安定性のないところを選ぶ馬鹿でもないか。

「一応後ろ見ときますね」

「ああ」

 並大抵の海兵ならこちらの脚力には敵わないはずだ。それでも追ってくるなら尻尾で軽く薙げば良い。彼女も何かしらの武器を携帯している(こんな確信を持ちたくはなかったが、彼女が武器の一つも持たずにいるのはあり得ない)が、彼女に手を出させるまでもない。無理やり海兵をやらせて海賊としての自覚を持たせるなんざ非道な真似はするつもりもない。海軍なんか敵対しないのが一番なんだ。幸い彼女は目立った活躍をしていないし、見た目もカタギ。であるならば万が一おれや海賊団がやられたとして民間人として生きていくこともできる。首に賞金なんか掛からない方が良い。少なくとも彼女はそうであってほしい。

「お前は手出さんで良い」

「背後に一、二……三。催涙ガス投げたんで速力あげてください」

「は?」

 手を出さなくて良いと言った途端に背後でシュウ、と気体の漏れる音がする。最初に言っとくんだった。ていうかそんなに躊躇いが無いもんなのかよ。

「お前までお尋ね者だぞ」

「そんなの、君の寝込みを襲った時点で覚悟してますよ」

 ねえページワンくん。そう甘く、けれど普段よりも僅かに張った声で言った彼女に奥歯を噛む。覚悟が無ェのはおれだけだったってことかよ。

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