俺を殺す君であれ
元々強い方ではない。
新世界の海賊の下っ端をできるくらいはあれど、例えば圧倒的数の不利を押し返すほどの力は無いし悪魔の実の能力やそれに近い力も持っていない。その程度では脱することのできない程度の窮地に追い込まれてしまっている。まずいな、こんなところで死ぬつもりはなかったけど、案外幕引きは呆気ないらしい。受けた傷の痛みを感じなくなってきた。頭が逆に冴えている。本当によろしくない、などということを繰り返し分析し続けていた。
ドッ、と何かが砕ける音がする。衝撃が無いので、痛覚が全て死んでしまったのかと思った。
「おれの女に何してやがる!」
低い声というか、もはや轟音。その後に私を取り囲んでいた敵が全て薙ぎ払われていた。彼の尻尾の起こした風に風に座り込んで上体がぐらついた。髪が靡く。明確な意志をもって助けられたのだけれど、どちらかといえば自然現象が見方をしてくれたみたいな感じだ。それくらい、彼は圧倒的力を持っている。じわじわと嬲られていたのを、彼なら一撃だった。すごいなあ、羨ましいなあ。ここは戦場なのに、かけっこでもするような気軽さで立ち回るんだから。まあ彼にすれば当然なんだろうけれど。
「……生きてるか」
「なんとか」
安心したのか身体中が途端に疼き出す。こんなことなら早く気絶しておくんだった。いやもうそろそろ落ちるかな。なんで気絶するタイミングを理解してるんだろう。十年前の私が聞いたら驚くぞ。
「おれの女、ふふ」
「うるせ」
彼を立ち上がることも難しいので、ページワンくんを揶揄うことにした。彼がここに来たということはもう戦いも終わるはずだし。
「おれを殺すまで死ぬなよ」
「プロポーズですか」
「……うるせェよ」
彼に抱え上げられた。まずい、彼の頬が赤いことはかろうじてわかる。
「答えはイエス、ですかね」
「馬鹿、おれァちゃんと考えて、あ? 嘘だろ、オチやがった……」
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