サラダにパイナップルを入れるな



 色鮮やかな野菜が盛り付けられたサラダボウル。スパイスの効いた赤いドレッシングは香りだけで食欲をそそる。そんな美味そうなサラダを前にして、彼女は深刻そうな顔をしてフォークを握り締めていた。

「実は私、苦手なものがあって」

「サラダに入ってる甘いやつか?」

「そう、そうなんです! どうしたって許せないんです」

 食べ物だけでなく苦手なものなんか無さそうだなと思っていたから少し意外だ。そんな一般人みたいな苦手があったんだな。確かに今日のサラダにはパイナップルが入っている。でもこれが今日のメシの全てじゃないし、パイナップルもせいぜい三欠片ほど。我慢して食べるにしろ残すにしろそこまで悩むことはないはずだ。

「果物と野菜を一緒に出すのはわかるんです。グリーンパパイヤとかアボカドなら許せます。甘味が薄いですからね。それにレモンやライムなんかも良いです。良い風味が加わりますからね。でも甘いやつは違うじゃないですか。グレープフルーツとかパイナップルが入ったら色味は綺麗ですよ。でも甘味がサラダを邪魔するというか……肉料理でもないのにパイナップルを使う意味がないじゃないですか。デザートでないものに甘いのが入ってるとなんか場違いだし。私は塩分を欲して食事をしているのであって甘味はデザートで摂りたいんですよ。棲み分けをしてほしくて。甘い卵焼きとか煮豆もデザートだと思ってます」

 意外と喋るな。余程サラダに入ってるパイナップルが嫌で嫌で仕方がないらしい。おれに攻撃を仕掛ける速さかつノールックで皿の中からパイナップルだけをフォークに串刺しにした彼女は、それをこちらへ向けた。

「というわけで。はい、あーん」

 大衆食堂ならまだしもここは二人きりの部屋。まあいいかと口を開きかけてふと思う。このまま喉に突き刺されたら割と間抜けだな、と。数秒考えてからフォークを持っている彼女の手を掴み動かせないようにする。そしてこちらから口を近付けた。

「残念」

「どんだけお前と一緒にいると思ってる」

「ふふ、愛ですね」

「言ってろ」

 そういえば間接キスだったなあと思いながら、甘酸っぱい果肉を噛んでいた。

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