こうふくを漢字で書きましょう
「ねえ君。『こうふく』と言われたらどんな単語を思い浮かべます?」
「あー……全面降伏とかの方か」
唐突な彼女の問いにも慣れてきた。彼女と周囲の価値観が違っていたとか、いらんことを吹き込まれたかのどっちかだろう。
「なるほど」
うんうんと頷きながらこちらの肩に乗せようとしてきた彼女の手を弾く。彼女の攻撃意志が珍しく読めた。頬をつつく気軽さと親愛で刃物を突きつけてくるような女だ。仮に見聞色を極めたとしても何の敵意もない攻撃を捌ききれるんだろうかと不安になる。
「ナイスガード」
「せめて文脈のある攻撃にしてくれ」
「ありますよ」
小首を傾げて彼女は言う。こいつ自分なりのかわいさを理解してやがるな? まあこれくらいで目くじら立てる男でもないのでため息を一つ吐いてスルーしてやるが。
「さっきのは心理テストです。相手に与えられたいものを表すそうなので。『降伏』を与えてみようかと」
「んな理由で人を押し倒そうとするな」
そんな心理テストが仮にあったとして結局幸福か降伏しか出てこねェだろうがよ。頭の茹ったカップル御用達の言葉遊びじゃねェか全く。
「てへぺろ」
今度は舌を出し自らの頭をこつんとやってみせる彼女。これは確実に姉貴から教わったやつだろう。なんだかんだかわいさを追い求めるのが好きな割にすぐ飽きるからな。
「……ページワンくん。この手は?」
「おれに降伏を与えてくれるんだろ」
流石にだんだんわかってきた。彼女に対しては真っ向からツッコミを入れていなすよりも適度にノってやった方が効果がある。彼女の両手首を掴み、そのまま半獣化した。ぷらん、と彼女の足が揺れる。この視点から見ると彼女も細く軽く小さいなあと、一瞬だけその姿を眺めた。
「私が降伏する側ですか」
「この状況で逆の可能性があると?」
ぎらりと歯を見せながら悪逆に笑ってやる。彼女は困ったような顔をして口を開いた。
「降伏の方向性が変態です」
もしかして嵌められたってやつか、これ。
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