血の海に骨の船




「気持ち良いですよ、君も泳ぎませんか」

「おれが能力者だって忘れたか?」

「まあスピノサウルスだしいけるかなと」

「いけるわけねェだろ……」

 波打ち際、彼女はぷかぷかと器用に浮かびながらそんなことをほざく。生憎こっちは泳げるようになるより先に悪魔の実を食べた身だ。その気持ちよさは理解しかねる。彼女の表情やら声色からその感想が嘘じゃないことは察せるが。それにここまで日が照っていると水にでも飛び込みたくなるのはよくわかる。わかるが、できない。やったが最後彼女に引っ掛かったなと微笑まれジ・エンド。あ、そういや日中の殺人はロマンがないとかでやらねェんだっけか。いやいやいやおれはなんでこんなに彼女のことを理解してんだよ。

「そういえば涙と血液ってほとんど同じらしいですよ」

 医療班の人に聞きました、と言う彼女。お前はどれだけネットワークが広いんだよ。おれでもそこら辺は関わったこと無ェぞ。

「血の海って表現も間違ってないのかもしれませんね」

「海も涙もしょっぱいからか?」

 そういうのには詳しかないが、塩分濃度は海と涙じゃかけ離れていたような気がする。というか味だけで見るのなら海水もスープも涙も同じになってしまうんじゃなかろうか。

「……あ。いやあ、聞いたことないですか? 海は古の神の涙だって話」

「……無ェな」

 少し考えてみるがそんな話聞いたこともない。海賊船で生きてきたんだからそういうファンタジーに聞き覚えがあっても良さそうだが、残念ながら割とシビアな環境で生きてきてしまったらしい。それとも彼女の語る逸話がごく一部の島にしか伝わっていないようなマイナーなものか。両方ありそうだなこりゃ。

「まあ血の海なら経験あるが」

 気を抜くと悪魔に心を食われる。先日も血の海に肉塊やら骨やらが浮かんでいる中でようやく気がついたくらいだ。

「そうでしたね。それと同じような心地よさですよ」

「んなワケあるかよ」

 彼女は相変わらず海にぷかぷか漂っていた。

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