殺意の煮っ転がし



 料理が好きだ。元々細かい作業が好きだし、自分の手で何かが出来上がっていくのはわくわくする。それに伴う音が良い。包丁とまな板のぶつかる音、ごぽごぽと湯の沸る音、水分が熱に上げる悲鳴。美味しいものを作ったらそれだけで周囲は簡単に幸せになってくれるし、そんな様子を見るだけでこちらもああ作って良かった、と温かい気持ちになる。それくらいの感情は持ち合わせている。ちょっと彼を殺したい以外は普通の小娘にすぎないので。

 しょり、と里芋の皮を剥く。どうも最近は厨房で雑用ばかりしていたせいか、こんな少量で良かったっけと思ってしまって良くない。ページワンさんとわたしだけの分なので、寧ろ多すぎるくらいだ。

 ワノ国を拠点としているので普段からワノ国風の料理ばかりになってしまうのだけれど、彼は案外文句を言わずに食べる。一つ言うとすれば毒を入れていないか、ということだけ。そんな毎度毎度入れていては毒耐性がついてしまって意味がない。彼が毒の心配をしなくなった頃合いで入れるのがセオリーだ。だからこの先一ヶ月くらいは入れられない。昨日入れたのだけれど、彼は獣態で解毒してしまったのだ。流石に人間の姿で食べるものに獣態でも致死量のものを入れたら匂いでバレるし、毒薬はそろそろやめようかしら、と思わなくもないけれど。

 ひたひたの水に芋を入れて火にかける。わたしと彼は相思相愛、けれどこの鍋の中のように混ざらない。溶け合わない。主義があまりにも違っているので仕方がない。ずっと煮詰めていけばいつか渾然一体になるかもしれないけど、人生は有限だし。

 後は調味料を入れて、煮れば完成だ。美味しくなあれと愛を注ぐぎたいのに、わたしが愛を出力すると殺意になってしまう。鍋を揺すりながら、こんな風にいつかわたしの殺意も美味しく加工されてしまえば良いのに、なんて考える。

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