必修科目:俺



「あ、新しいシャツでしたら寝室に」

 背後からの彼女の言葉に振り返る。別に彼女に聞いたわけでもないし、探している素振りすらみせなかったはずだがさも当然のように彼女は言う。ありがたいことにはありがたいのだが、ここまで先を読まれると気持ち悪い。

「お前どこまでおれのこと把握してんだよ……」

「身長体重体脂肪率血液型生年月日、手足頭など全てのサイズ。好きな物嫌いな物とその理由、趣味に性的嗜好性感帯。あとは」

「待て待て待て」

 まさかそこまで羅列されるとは思わなかった。というか何故そんなもんを把握してる。体重やらサイズは日々変化するだろうし、定期的に測られているということなのか。そして性的嗜好まで把握されてんのかよおれ。こいつの情報収集力は何だ、マジでニンジャの類だろ。

「あとはここ数日の食事のメニューとかですかねぇ」

 知ってて何が悪い、と言いたげに彼女は言う。いやまあ悪いことは無いんだがここまで把握されてるとは夢にも思わない。

「わたしの目標は君を殺すことですからね、これくらい把握しといて当たり前です」

 こう、彼女は至極真面目だ。そして努力を厭わないタイプ。文句のつけようが無いほど有能なんだが、イマイチその行動原理が全ておれに帰結するところがよろしくない。諜報部隊に放り込んでも全く問題ない働きを示しそうなものだが……彼女は生憎おれの傍、おれに関することでないとてんでやる気を示さない。

 どう反応すれば良いか迷っている。彼女のこの気質に助けられていることは確かなのだが、こうも調査されているというのはやめてほしいだろ、どう考えても。

「おれよりおれのこと知ってんだろ」

「いいえいいえ。わからないこともありますよ。例えば、君が何故わたしを好きになってしまったか、とか」

「は」

 別に知らなくても良いですけどね、と続けた彼女はこちらの顔を覗き込んでいる。ああこれ、説明しろってことかよ。絶対にしねえけど。 

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