難読感情検定



 彼女はよくわからない。自分以外の誰かの感情なんかわからなくて当然、なんて意見ももちろんわかるのだが、それにしても彼女はわかりにくい。もう相互理解も諦めているが、恋人のことを理解したいと思うのもまた当然のことだろ。彼女が何をすれば喜ぶのか、面食らうのか。それくらいは知っておきたい。

 愛と殺人衝動を履き違え、死と快楽を同一視する。そんな彼女が通常の価値観を持っているのか。例えばかわいいぬいぐるみに興味を示すのか。気になって仕方がない。仮にもおれは彼女に恋をしているのだし。

 だが彼女に何をしていると嬉しいか、などと聞くとノーモーションで組み敷かれて「こうやって君を殺そうとしている時です」なてハートマーク付きで言われてしまうので聞けるわけがない。だから日常の細かな部分しか読み取るしかない。敵でもないのにこんな観察するなんて気持ち悪いことこの上ないと自分でもきちんと思っているのでツッコミは受け付けない。

「珍しいですね、考え事ですか」

「お前のことがわかんねえなって思ってよ」

 もう素直に言ってしまう。どうせ隠したって彼女は大体おれのことを見透かしている。何を話したって「知ってますけど」と一切慌てもせず返答するんだから。

「わたしだって君のこと、わかりませんよ」

 きょとんとした顔で彼女は言う。ああそう、と少し安心する。なんだか常におればかり苦労してるんじゃねえかとばかり思っていたので。

「少なくともおれァ殺人未遂じゃ喜ばねえな」

 そんな彼女の手に握られたナイフは恐らく護身用でも戦闘用でもなくおれ専用のものだ。あれで今晩にでも首筋に食らいついてくるはずだ。ああいや。あんなに見せつけてるんだからあれはフェイク。実際は腿に常備している匕首を使ってくるに違いない。

「えっ、そうだったんですか」

 とぼけ顔の返答。こいつやっぱりおれのこと見透かしてんだろ!

prev next

back
しおりを挟む
TOP



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -