舞台は跳ねた



「うわあ、派手にやりましたね」

 彼女はおれの口の中に頭を突っ込んでそんなことを言う。戦闘後、特に獣態で暴れた後は口内に「残骸」が残る。それを彼女が取り除いてくれているのだ。元々自分でできるんだが、まあ誰かにやってもらった方が早く済むのは確か。小鳥に歯を掃除させるワニの如く、寝そべってただ口を開けている。スピノサウルスというのはマズルが長い。半ば食われるような形でいる彼女に、ぞわりと何かまずい感情が動かないわけではない。

「あっ舌動かさないでください」

 この時ばかりは彼女に何も言い返せない。彼女もそれをわかっているので、こちらを煽るようなことは言わない。日頃殺したい殺されたいなどと言う割にはうっかり頭蓋を噛み砕かれるような真似は決してしなかった。

 海賊といえば戦うか宴をするかの二択だ。戦闘後の後始末を終えれば完全なオフモード。幕の閉じた後は何をしようが構わないわけで。この時間がもどかしくて割と好きだ。

「終わりましたよ」

 それにしても、人だったものを見ても悲鳴すら上げない女ってのはどうなんだ。おれや姉貴みたいに海賊以外の生き方を知らない奴ならともかく、彼女は元々カタギだっただろうに。毛髪のついた皮膚に肉塊を手早くゴミ箱に放り込む彼女を見ながら思う。

「君。一緒にお風呂でもどうですか」

「あ?」

 何を言ってやがる。誘い文句と受け取っても良いのかそれは。おれも彼女も戦闘開け、熱が抜けず滾ってしまうのは理解できるが。いや、能力者の弱点である水場でこちらが弱体化するのを狙ってやがるのか。どちらにせよ彼女の思い通りにならざるを得ないので、据え膳だとしても食いつくように頷くこともできない。

「言い方を変えましょう。今度は君が私のことを掃除してください」

「はいはい」

 ああもう。手玉に取られてるみてえで腹が立つぜ。

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