詐糖細工



「おい馬鹿、止まれ」

 フーッ、と獣のような呼吸をする彼女を押さえ込む。バーサーカーじみた彼女は初めて見た。どうやら敵を倒しているうちに何かしらのスイッチが入ってしまったようで、もうその必要はないのに攻撃を繰り返している。

「ページワンさん、ふへ、最高ですね」

 恍惚として彼女は言う。何が最高なのかはともかく、おれも能力に呑まれると時折こんな状態になるので理解できなくもないのだが、こんな戦場のど真ん中でしていい顔ではないだろ。伝う鼻血をべろりと舐めて、まだ呼吸は整わない。これは気絶でもさせたほうが良いか。手に余る。

「今ならサイコーに死ねると思うんですが如何ですか」

「如何も何もねェよ……」

 彼女は相変わらず二言目には生死を話題に出す。もう慣れたから良いものの、この場でそんな問答をするほど暇ではない。

「毒とかどうですか、敢えてこの場で服毒! ロマンですねロマンですよ」

 彼女は器用に胸元からごく小さな包みを取り出した。キャラメルでも入ってそうだが……いやそんな間食みたいに毒を用意してんのやめてくんねぇかな。

「あっおい馬鹿」

 毒がどれだけ(彼女にとって)ロマンであるかを語りながら、彼女は包み紙の中身をぽいと自らの口に放り込んだ。即座に彼女の口の中に指を突っ込んで吐き出させようとするが彼女は口を固く閉ざしている。それどころかこちらへ抱きついて、口付けをする。あ、これまずい。こいつ口移しで毒薬を。勘弁してくれ、なんだって戦場のど真ん中で服毒自殺せにゃならねェんだ!

「…………甘ェ」 

「琥珀糖ですよ、肉体疲労には糖分がガツンと効きま……あいた!」

「紛らわしいことすんじゃねェ」

 思わず彼女の鼻頭を小突いた。ああクソ、ハイテンションの彼女はこれだから面倒なんだ。

「騙される君も君ですよ、こんな簡単に毒薬なんか保存するわけないじゃないですか。毒は指輪の方に入れています」

「おれと揃いのやつじゃねェか!」

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