毒吐く



「なんだこれ」

 珍しく彼女が不在にしているようだ、と部屋を覗き込めば机の上には様々な道具がそのまま放置されている。ペンチやニッパーなんかの工具の類から、試験管にビーカーのような実験器具まで。よくわからないいろんな色の粉末と液体まで揃っている。戻ってきたら作業を続けるつもりなんだろうが、こういうのはちゃんと片付けるべきじゃねえのか。入ってきたのがおれだったから良いものの、不用心な下っ端あたりだったらまずいだろうに。

 すん、と部屋に充満する匂いを嗅ぐ。爆薬でも作っているのかと思ったが火薬の匂いはしない。じゃあアレか、毒か。懲りずに手料理に混ぜてくる毒はこうやって作られていたのか。手足が痺れるだけのものから幻覚が見えるものまでよく用意できると思っていたがまさか彼女が手ずから調合していたものだとは。全く才能に溢れた奴だ。そう感心しかけて、いや彼女の悪巧みに関するものならば今のうちに片付けてしまっていた方が良いのでは? という気になる。これが明日の朝食に混ざっている可能性も否めない。

「あっあ、見ましたねページワンさん!?」

 彼女の声が背後から響く。ムカつくくらいに落ち着き払って隙の無い彼女にしては珍しい、焦った声だ。

「見られちゃマズいもんを置いとくなよ」

「急ぎで完成させなきゃいけなかったんですよぅ……」

 つーか見てもこれが何になるか全くわからねえから問題ないだろうに。余程詳しい奴じゃなきゃ判断のしようがないだろ、これ。

「むむ……仕方ない、腹を括ります。君の要望に応えましょう。どんなのが良いですか?」

「いや……毒は全般いらねえけど……」

「毒なんてまさか! 君への誕生日プレゼントです」

 ああ。そういえば数日前に誕生日だったっけ、と今思い出す。残念ながら姉貴もおれも彼女も任務中で、誕生日なんて考える暇もなかったのだ。

「ページワンさんはダウナーとアッパーどっちが良いですか? サイケも用意できますが」

「毒じゃなきゃ良いって思ってんのか?」

 一緒にいてくれりゃそれでいいってのに。

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