曖、昧、me/アオハル



「自己の存在はあまりにも不安定であり、すなわち諸行は無常である」

「お前倫理取ってたっけか」

「いえ、宗教でも興そうかと思って」

「宗教でも興そうかと思って!?」

 思わず声も張り上げたくなる昼休み。まさか自分の恋人が新興宗教の教祖になろうとしているとは夢にも思うまい。てっきり倫理の授業で学んだことの復習でもしているのかと思ったおれが馬鹿だった。

「友人に倫理の教科書を借りたんですけどね、なんか私にもできそうな気がして」

「誰にでもできたら苦労しねえだろ……」

 と言いながらも彼女ならやってしまいそうなので恐ろしい。さっき口に出していたような内容はどうだかわからないが、よくわからない人形を依代にした怪しい崇拝くらいは流行らせそうだな、と思う。完全におれの偏見だが。

「宗教作ってメリットあんのか?」

「楽しいかなと……」

 思いつきでこんなことを言うのだから手に負えない。実際行動に移すことは無いとは思いたいが、彼女のことなのでわからない。本気を出せば国一つや二つ傾けられますよ! とかなんとか言っていたのが現実味を帯びてくるのでやめてほしい。

「まあそんな冗談はさておき。こう、考えるわけですよね。この世の全てが虚偽であるとしたとして、そう疑っているわたし自身は確かにここにいるっていう」

「お前適当に難しいこと言って誤魔化そうとしてねェか」

 まさか、と彼女は首をすくめてみせる。残念ながらおれは倫理を選択していないし、趣味でもない。彼女の言っていることが正しいか間違ってるか判断しかねるのだ。それを当然彼女も知っているわけだし。

「わたしが君を好きだと思ってるってことはわたしはちゃんと存在するってことですよ」

「絶対違うと思うぞそれ」

「じゃあそれっぽい写真と共に投稿してバズらせますかね」

「絶妙にそういう層に響きそうだから止めとけよ……」

 こいつマジで宗教興そうとしてねェか。

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