はっぴいえんど



「君とわたしのハッピーエンドを探ろうと思いまして」

 彼女は楽しそうに言う。今日の議題はそれらしい。いつもより少しシリアスな話題だがまあ良い。どうせ毎度毎度踊って結論なんか出ないんだし。

「ハッピーエンドつっても死しか無ェだろ」

 人間はいつか死ぬ。確率が一のものなんて死しかない。誰だって終わりは死だ。彼女の言うハッピーエンドとやらが何を理想とするかはわからないが、それだけの話だ。

「ロマンの欠片もない」

「うるせェ」

「ですが多分、それが理想ですよね」

「あ?」

 彼女がこちらの意見に賛同するとは珍しい。しかもこんな曖昧な話題で。そもそも彼女の言わんとすることもよくわからないんだが。

「君はわたしと生きたい。わたしは君を殺したい。この二つは同じようで違うと思っていたんですけれど……心情の変化というか。今際の際に君を殺せたらそれで良いかなと思うようになりまして」

 滔々と語る彼女。彼女が満足ならそれで良い。どうせ彼女の考えることはあまりわからない。理解できていたらそもそも彼女とおれは面倒な問答も付き合いもせず最短経路で回答を叩き出していたはずだ。

「つまり?」

「ええ。君を殺すのは君が死んでも良いと思ったときにします」

 呆気ない幕引きにきょとんとする。なんだか今までさんざ殺されかけていたのが馬鹿みたいだ。これで彼女がおとなしくなってくれるなら万々歳だし、これで晴れて真っ当な恋人同士、というわけだ。

「じゃあおれは毎晩お前に怯えなくて良いわけだな」

「あ、それは別の話です」

「は?」

「殺人は止めますが殺人未遂は止めませんよ。ライフワークなので」

 ああ言えばこう言う。子供に馬鹿にされているみたいな気分になる。

「それに君、わたしに肉薄されない生活も退屈でしょう?」

「ぐ……」

 その通りなのだが、その通りと認めてしまえば彼女が調子に乗るのは目に見えているしなんだか矜持みたいなものが許さない。

「ではこれからも、よろしくおねがいしますね?」

 本当にヘビーな女!

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