俺がお前のお姫様



「ちょっと無礼なことしますね」

「は?」

 そんな前置きをして彼女はおれをいきなり抱き上げた。嘘だろ、それなりに鍛えてるつもりはあるし、つまり筋肉ばっかりなのでおれはそこそこ重いはずだ。それを軽々と、しかもお姫様抱っこされるなんざどうなってやがる!

「できちゃった……」

「できちゃったじゃねェ降ろせ」

 彼女自身もこんなに上手くいくとは思っていなかった、みたいな顔をしている。なんだって男のおれが彼女にこんな格好させられなきゃならん。というか姉貴だってこんなことしないぜ、ここ数年は。

「いきなりどうしたんだよ……」

 存外素直に従った彼女に問う。誰かに何か余計なことを吹き込まれたに違いない。いや、単なる思いつきか。姉貴よりは行動に予測がつきやすいんだが、彼女も彼女で厄介なんだよな。

「遊郭の方々が力比べしてるのを見かけまして」

「おれダンベル代わりにされたのか?」

「ええ、まあ」

「少しは否定しろよ……」

 変なことを吹き込まれたわけじゃなかったと喜ぶべきか、落胆するべきか。むしゃくしゃしてしょうがないので、仕返しにと彼女のことを抱き上げる。もちろんお姫様抱っことやらで。

「お、おお、お。意外と不安定ですねこれ」

「わかってもらえて何よりだ馬鹿」

「あ、わかりましたよ。この不安感をドキドキに錯覚するってやつですね? 吊り橋効果だ」

 なるほどなるほど、と頷く彼女。少しは赤面してくれたっていいだろうに、全く思い通りにいかない女だ。キスの一つでもしてやるか、と顔を近づけたところで、背後の襖がタァン!と開く。

「あー! ぺーたんが私以外の女をお姫様抱っこしてるー!」

「あっやべ」

「こんにちはうるティさん」

 馬鹿野郎、姉貴の襲来にそんな呑気なこと言ってんじゃねぇ! と言いかけた口は姉貴からのチョークスリーパーに消えた。

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