憎悪、嫌悪、執着



「お前、好きだから殺すんだろ」

「そうですね、まだ殺せてませんが」

「じゃあ嫌いな奴はどうすんだ」

 彼女の感覚について問う。好きだから殺したい、なんて通常とは逆の思考回路が展開されているのならば、嫌いで嫌いで仕方がない奴に対してはどんな感情を抱くのか。まあ彼女の人となりを考えれば彼女が嫌う奴なんてよっぽどなんだろうな。それこそ世界中で皆に嫌われてる悪党みたいな奴じゃないのか。

「あんまり嫌いな人いないですけど……多分無視しますね」

「意外だな」

 なんというか、彼女は大人しいようで案外苛烈だ。普段はあくまで品行方正な淑女なんだが、ふとした瞬間にこちらでさえ予想できない行動に出ることがある。まあそれがこちらへの殺人未遂なんだが。殺意が一切無いのに、いきなりナイフを突き付けてくることがあるので何度経験してもどきっとする。これがドキドキの絶えないラブラブ生活ってか、畜生め。

「面倒じゃないですか。嫌いな人のこと考えるくらいならその分好きな人のことを考えたいですし、嫌いっていうマイナス感情すら勿体無い。わたしの感情は有限なので、すべての感情を君に注いでいたいんですよ、ページワンくん」

 彼女の言葉は理に適っている。憎悪という感情すら勿体無いというのは多少過激な発言だが、まあ間違っちゃいない。それに従えば、彼女の好きだから殺したいなんて発想も理路整然としているような気がしてくる。彼女の愛の形か……と許容しかけて止める。そんなわけがあるか。

「憎悪も嫌悪も執着でしょう? 執着は好きな人にだけしていたいんです。一生を賭して執着したい」

 狂っていないのが嘘みたいだろ、こいつ。正気のままこんなことを宣うんだからマジでこっちが間違ってるような気にすらなる。

「まああとは単純に。嫌いな人のこと考える余裕ないんですよね。君に夢中なので」

 ウインクでもしながら彼女は言う。随分頭のおかしい発言をしてる自覚はあるんだろうか、こいつ。

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