あうんのこうきゅう



「あうんのこうきゅうってどういう意味ですか?」

 そういえば、と彼女が切り出す。移動中の船の中、話す種も尽きたんだろう。彼女がおれにこういう質問をしてくることは珍しく、大抵勝手に調べている。今回ばかりは他に聞ける奴がいなかったんだろう。

「そりゃ阿吽の呼吸のことか?」

「そうです、それ」

 暇な時はワノ国を勝手にふらついていることの多い彼女だ、どこかで耳に挟んだんだろう。それともどこかの書物で読んだか。勉強熱心なもんだからおれの知らないワノ国文化を持ち出すこともあるくらいだ。

「息が合ってるってことじゃなかったか」

「ああ、だから呼吸」

 詳しくは知らないが、確かそんな話だったはずだ。阿吽のどっちかが息を吸う、どっちかが息を吐くだったとは思うんだが定かじゃない。そこまでの説明も彼女は必要としていなさそうだし。

「いやね、街で見かけた大工の二人組が言われてたんですよ」

 ワノ国は活気に満ちている。どんなにおれたちが支配しようと民衆の根底にあるらしいあっけらかんとした明るさときっぷの良さはこの国くらいでしか見ない。その大工とやらも半ばパフォーマンスじみた仕事をしていたんだろう。

「わたしと君もそうなれたら良いですね」

「おれとお前が?」

「君の命を狙うにはそれが一番なのかなと」

「じゃあ頑張れよ、まずは幹部クラスまで上り詰めるんだな」

「うわー意地悪ですね」

 どちらかと言えばおしどり夫婦の方になりてェけどなぁという言葉は胸に秘める。彼女のことだ、「オシドリって毎年つがいを変えるんですけど良いんですか?」だの言うに決まってる。

「まずは飛び六胞以外の真打ちを全員倒せば良いですか?」

「それやるとカイドウさんは気に入ると思うがウチそういう制度じゃねェんだよな……」

 案外負けず嫌いなんだよなこいつ……と思いながら彼女を見る。言葉の綾を真っ向から受け止めるあたりとか、特に。

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