人生の方向性の違いで解散しました
「マジでお前いい加減にしろよ!?」
累計今週十回目の暗殺未遂に声を荒げる。今までの総計なんざもうわからない。彼女なら一から千までキッチリと記録だか記憶だかしてそうだが藪蛇になりそうなので聞かないでおく。
「すみません、上手くやったつもりだったんですけど」
「違う違う、一撃で仕留めるのは確かに大事だがそういうこっちゃねえんだわ」
彼女の腕は良い。良いのだがおれ相手なのが悪い。伊達に二億と九千万の首じゃないし、彼女程度に寝首をかかれちゃ困る。
「もっとこう……他の行動で昇華できねェか」
「無理ですね」
「即答しやがる」
彼女なりの愛情表現だということはわかっている。重々理解しているのだが毎日殺されそうになることが続けばこうも言いたくなるだろ。というか愛情表現だから殺しますとか言う奴を惚れた弱みで野放しにしてるおれは十分優しい方だと思うんだが。
「残念ながら、残念ながらですね。君がわたしにキスをしたいのと同じように、わたしは君を殺してしまいたいんです」
こればかりはどうしようもない、と彼女は言う。それはそうかもしれないし、どうにかこうにか二人で折衷案を探ってきたつもりだったんだが。どこまでいっても平行線、もう諦めるしかないらしい。人の生まれ持った感覚をとやかく言うつもりはないがあまりにも難儀だろ、これ。
「減らすのは?」
「……頑張ればなんとか」
「じゃあ一日一回までで」
それくらいなら大丈夫だろ、現状大体週に二十回程度なんだから、これで半分以下になるはずだ。彼女はおれの提案にきょとんとした後で頷いた。
「週に一回とか言われると思ってました」
「できるならそれで良いぞ」
「いえいえ、一日一回にしましょう」
彼女はいつもの柔らかい笑みで言う。どうやらお気に召してくれたらしい。
「正直最近マンネリというかネタ不足気味だったんですよね。一日一つ、心を込めて考えた死を提案しますね」
飴玉でも貰った子供のように彼女は楽しそうだ。ああクソ、これプラスマイナスゼロなんじゃねェか?
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