押し倒して、口付ける



 ああ駄目だ、我慢が効かない。

 昼間血を浴びすぎたか。まだ熱が醒めない。勘弁してくれ。さんざ水を頭から被っただろ。頭がぐらついて仕方がない。理性がてんでいうことを聞かない。本能だけの獣になってしまえと喉が鳴る。目の前の柔らかそうな肉塊を食ってしまえと腹の底が叫ぶ。ふーッと息を吐く。ガチガチと歯がかち合って音を立てる。おれの下にいる彼女は呑気な顔でこちらを見上げている。馬鹿野郎、いつもの身軽さと食えなさはどうした。さっさと逃げろ。ただの肉欲じゃねェぞこれ。説明する言葉も出てこない。バリ、と獣化した爪が畳を引っ掻いた。

 性欲だけだったらどんなに良いか。目の前の彼女が扇情的というよりはたまらなく美味そうに見える。生っ白い肌を裂いたら赤く綺麗に違いない。よく跳ねる彼女だ、脂肪と筋肉のバランスも良い。滴る血を想像するだけで涎が止まらない記憶の隅から鼻血を乱暴に舌で拭う彼女の映像を掘り起こしてはまた興奮している。ウサギのようにわがままで、ヤギのように愚かで。ああクソ、愛おしい彼女がただの食材にしか見えていない。

 逃げろよ。仕方ない、もう性欲で上書きしてしまうか。自分が今彼女に抱いているのはあくまで性欲で、決して食欲なんかじゃない。こんな乱暴な欲求がまかり通ってたまるか。荒い息を誤魔化すようにそのまま口付けた。抵抗くらいしろよ。彼女の舌先を噛んでしまわないようにぐちゃりとわざわざ音を立てる。自分が今どれくらい獣化しているかすらわからない。

「今日は随分荒っぽいですね」

 あ、こいつわかってやってやがる。囁くように言った彼女にそう思う。この状態で煽りやがって明日全部おれの胃の中でも文句言うなよ……ああ、こいつはそういう奴だった。おれに殺されたいと素面でさも当然の願望のように語るんだ。畜生、彼女を殺したくないのはおれの理性だけかよ。

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