玉ねぎ、人参、馬鈴薯/アオハル
「あれ、奇遇ですね」
「ん、おお」
近所のスーパーで、偶然彼女と出会う。こちらは姉貴からのおつかい(という名のパシリだ。ぺーたんがんばれと玄関先で応援するなら素直に買い物に行ってほしい)だが、彼女は日用品の買い出しらしい。カゴの中には野菜やら食パンやらが放り込まれている。
「助平ですね、人の買い物事情を覗くなんて」
「いやそんなつもりじゃなくてよ」
そんなつもりじゃなくて何なのだ、とは思うが買い物中の相手のカゴの中には普通目がいってしまうものじゃないのか。まあ個人差はあるだろうがおれはそうだ。助平と言われてしまえばそれまでだな。
「重い物あんなら手伝おうかと思ってよ」
「むむむ、彼氏面ですか?」
「彼氏だが?」
口元を押さえて本当に……? という表情をする彼女。馬鹿野郎、昨晩の頭の茹だったメール画面でも見せりゃいいのか。
「いえ……ちょっと真正面からの優しさに戸惑ってしまいまして」
「ああそう……」
彼女はなんというか、変わっている。恋愛ごとに疎いかと思えば時々いきなり距離をつめて甘ったるいことを囁いてくる。確かに可愛い奴なのだが、調子が狂うというか変な気分というか。
「でもありがとうございます。今日はお米も買う予定だったので助かります。ただ……」
「うん?」
「そっちの買い物は良いんですか? それ、うるティさんのでしょ」
彼女が指差すこちらのカゴの中には紙パックのミルクティーとスナック菓子。確かに姉貴のものだが、彼女の家に寄った程度で悪くなるものでもない。それに姉貴も何故か彼女には甘いので彼女の手伝いをしていたと言えば問題ない。
「お前から姉貴にメッセージ入れといてくれ」
わかりました、と頷いた彼女はどことなく嬉しそうだ。素直に喜んでいるらしい。彼女の表情は分かりにくいから、こういうふうに透けて見えると少し嬉しくなる。
「今晩カレーなんですけど持って帰ります?」
「良いのか? 姉貴が喜ぶ」
「ええもちろん」
流石に手は繋がせてもらえなかったが。
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