僕を殺す権利
「ページワンさんにはね、こちらをプレゼントします」
彼女はそう唐突に宣言して、指輪をこちらに寄越した。まるでおれが何かの大会で優勝したその副賞みたいな渡し方じゃねえか、と指先で摘んでまじまじと観察する。彼女のことだ、嵌めた途端に棘が飛び出し毒が……なんてギミックが仕込まれているとも限らない。
「ンだこれ」
「わたしを殺す権利です」
ハートマークがつくような甘ったるい声で彼女は言う。なんだお前酔っ払っているのか。いや酒に弱い彼女にしては頬の上気がない。正気でこれをやってるのか。散々思ってきたが、彼女は頭が茹だっている。馬鹿とも言う。
「口約束では心許ないでしょう? だから書面にしようとしたんですけど紙って持ち運ぶのに不便じゃないですか。だから身につけやすい指輪で用意しました」
頭の中に生クリームでも詰まってんのか。素直にプレゼントじゃダメなのか。行動一つにツッコミが渋滞して言葉に詰まる。
「これ着けてたらお前のこと殺せるわけ?」
「はい」
マジでどうなってんだよ。おれを殺せないと遂に諦めたのか……いやそれなら今彼女が動いた時に見えた太腿のベルトは何だ。軽く見ても三本以上のナイフが収まってただろ。絶対に護身用ではない。
「どこに嵌めたら良い?」
「君の薬指に丁度良いサイズです」
「いつ測ったんだよ……」
もしも海賊なんてない平和な世界なら何かしらの罪に問われるぞ、と心の中で呟く。まあ別にこんな世界でも結構ギリギリなラインなんだが。
「毒は無いな?」
「ありませんよ」
けろりと当然の様にいう。そりゃまあ指輪には毒がない方が普通なんだがよ。おれが持ったままの指輪に彼女も指を通して見せる。幾分隙間があるがそういったギミックは無いとみて良いだろ。
「左? 右?」
「心臓に近い左を」
「はいはい」
素直に婚約指輪です、とでも言えばいいのにまどろっこしい。次の遠征の時にでも彼女の指輪を選んでくるか。
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