背中を預ける
「すみません、まさか足を負傷するとは」
「気にすんな」
ぐらりぐらりと身体が揺れる。これはやらかしたなぁと思いながら、彼の好意に甘えてその背中に乗っかっている。そう、決しておぶさっているのではない。スピノサウルスになったページワンさんの背中に乗っている。まあ大きな背鰭(というと彼からは帆または神経棘だと訂正が入る)があるので首筋に後ろ向きに跨っているという方が近いが。まるで子供の夢のような光景だなと、右足の止血と固定をしながら思う。どうやら骨も折れているらしい。これでは彼と肩を並べるどころか歩くこともままならない。
「背後。追手がいますね」
「……頼めるか?」
はるか後方。狙撃武器を持った追手がいる。恐竜相手に普通の銃弾や弓矢なんて効きもしないんだけれど、毒でも塗り込まれていたらコトだ。彼の言葉に頷いてライフルを構える。狙撃銃の類はあまり扱いが得意ではないので、まぐれでも当たれば威嚇になるか程度で良い。そもそもこんな揺れる環境で使うものでもなし。名うての狙撃手であれば話は別だろうけど。タァン、と一発。やっぱダメだ、当たらない。こんなことならガトリングでもかっぱらってくればよかった。
「すみません、速力上げてもらっても?」
「大丈夫か?」
「面倒になっちゃったので爆破します」
「そりゃあイイ」
意地悪く低い彼の声が背中から響く。大きな姿であればあるほど、彼は性格が凶暴になる。それがどうも可愛らしくて良いと思う。無理をして演じているのかそういうものなのかはわからないけれど。斜めがけにした鞄の中から手榴弾を取り出す。さっき敵の武器庫でくすねてきておいて助かった。ピンを抜く。投げる。消火器よりも随分簡単な手順で三つほど、後ろへ放る。
「やったか?」
「やりましたよ、多分大丈夫です」
「助かる」
少し速度の落ちた彼はどうやら、わたしを気遣ってくれているらしい。
「乗り心地はどうだ」
「そうですね、できれば怪我のない状態で乗りたかったです」
くっくっと彼が笑う。心地良いのに、傷に響いて仕方がない。
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