(番外編)リターンストローク5



「お前、カクテルなんか作れたのか」
 妖精の尻尾フェアリーテイル、ギルドにて。シェイカーを手にバーカウンターの内側に立つ私に、ラクサスはそんなことを言う。
「あのなあ。私天馬にいた頃ずっとバーテンダーやってたんだぞ」
 そうだったか、と彼は興味なさそうに言う。彼も同じギルドにいたけれど修行ばかりだったからなあ。知らないのも無理はないか。
 アルバレス帝国との戦争から数ヶ月。街の復興も進み、段々と日常を取り戻してきた頃。それは魔導士も例外なく、各地のクエストをこなすべく仕事に勤しんでいた。ラクサスなんか特にそうで、一年ちょっと前の大魔闘演武の評判はまだ続いているらしい。彼ご指名のクエストも少なくない。
「何にする? 奢ってやろう」
「好きにしろ」
 席に着いた割に何だその態度、と言いたくもなるが、逆に彼がペラペラと注文を連ねるのもなんだか違う気がする。任せる、ということか。彼の味の好みはあんまりわかんないんだけどな、まあ何が出ても文句は言わないらしい。
「やる」
「なんだこれ?」
 こっちがシェイカー扱ってるのわかってるか、君。彼がカウンターに置いたのはベルベット生地のアクセサリーケース。あんまりこの場にそぐわないような気もする。
「ピアスだ。依頼主が宝石商で、追加報酬だとよ」
 なるほど、彼はピアスなんかつけないから宝の持ち腐れになる、というわけだ。私は天馬にいた頃からピアスをするようになったし。貰えるものはありがたく頂戴しておこう。まあそれに、他でもない彼からの贈り物だから、少々嬉しくなってしまう。そんな感情を表に出したら揶揄われそうだし、と、ふうん、と言いながらグラスへトトトッとオレンジ色の液体を注ぐ。
「スクリュードライバー」
 彼はきっと甘いだの何だのと言いそうだが、彼の髪色を見ると思わず作りたくなってしまったのだ。そうして彼がグラスを手に取ったのと同じタイミングで、私もアクセサリーケースを手に取り、開く。
「うわ……これステラニウムじゃん……」
 ステラ王国でしか取れない、ダイヤモンド以上の硬度を誇る鉱物。しかも星々を集めたような輝きとまで言われるその様は、わずか数ミリほどのサイズであっても存在感が凄まじい。かなり上等のもののはずなのに、こんなついでみたいに置くのは勘弁してほしい。
「返事代わりにしたら良い」
「返事」
 思わず彼の言葉を繰り返す。繰り返して思い返したところで、一つだけ思い当たる。私が彼へ保留している返事といえば、ああもう、こんなところで言うのはやめてくれないか! まだ天馬にいる頃にした口約束のことだ。つまり彼は、私に片想いを止める気になったらこのピアスをつけろと言っているらしい。そこまで思い当たったことを察したのか、彼はこちらを見ながら僅かに口角を上げている。
「…………もう今日は君に作らないぞ」
「一緒に飲むか」
 平然と言ってのけるんだから! シェリー酒の瓶とグラスを手にとってカウンターを飛び越えた。君には敵わないぜ、本当に!
 


【リターンストローク 終】

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