TRICKSTER 06



「いやー、いいもんだなアローラ!」
 アロハシャツにサングラス、首からキュワワーを模した花飾りをした彼は随分と上機嫌だ。リゾートホテルの一室、ベッドに仰向けになった。
「オレさまも休暇取ったのよ。ほら、ジムリーダーも休めって時代だし」
 投げかけそうになった疑問を先回りして彼は答えた。あの日すぐガラルに戻るとばかり思っていたけれど、このまま観光をすると言われた時は思わず聞き返してしまったっけ。それも何をどうやったのかハノハノリゾートホテルの一室まで取ったというのだから驚きだ。
「もったいないくらい、立派なホテルだ」
「そんなことないだろ、オレさまとオマエの初デートだぜ?これでも足りないくらいだ」
「む……」
 デート、なんて言われると少し調子が狂う。いや別に普通のことなんだけど、そう実感すると嬉しいような、恥ずかしいような。
「なーんてな!ここは明日でチェックアウト。次はホクラニ天文台かポニの大峡谷だからモーテルだ」
「ちゃんと調べてる……」 
「ドラゴンストーム・キバナさまだからな。なんでも完璧にこなしてんの」
 ふんすと得意げな彼に舌を巻く。敵わないな、何もかも。さっき裏のビーチでナマコブシをつっついてどぎついボディブローが入っていたのは言及しないこととして。
「ポニ、ジャラコの生息地があるんだけど修行トレーナーがすごく多いよ」
「強いか?」
「全員倒した」
「じゃあ大丈夫だな」
 彼が笑いながらこちらの髪に触れる。ずるい。いついかなるときも絵になる人だ。これを隣で眺められるんだと思うととてつもなく幸せだ。世界中の幸せを集めて形にしたら、多分彼になるんだと思う。少なくとも私の中では。」
「ポニにするか」
「そうだね。天気的にもホクラニは後の方が良いかも」
 部屋のテレビは一週間の天気予報を告げている。天体観測をするなら晴れの夜が良いだろう。まあ滅多に雨の降るところでもないらしいけど、今日明日は雲が多いらしい。
「あ、マンタインサーフしようぜ」
「いいね。私やったことないけど」
「オレさまもだっての。大丈夫だろ、オマエはポケモンに好かれるし」
「それで連れ去られそうになったことが多々あるけどね……」
 彼の指が私の髪を弄んで、それから頬を撫でる。
「……ねえ」
「好きだ」
「何があったって」
「離してやるもんか」
 口々に言って、流石にキザなセリフだったなと二人で笑う。昔から会話がシンクロしがちだった。こうなるとどんなことを話していても内容よりも通じ合えていることへの歓びの方が大きくて笑い転げてしまうのだ。
 口に出すと言葉は形を持つ。それはどうやら事実らしい。嘘は真に、真は理に。何度か彼へ告げたこの言葉は、告げる度に感情が膨れ上がるのを感じる。幸福であることの再確認。理屈で言うと凄まじく概念的だけれど、確かにここにあるのだから仕方がない。
 彼はまだ笑っている。サングラスの隙間から見える瞳がきらりと光って綺麗だ。日没の一瞬に燦く太陽のようで、赤い花弁が風に舞うようで。
「好きだよ」
 だからもう一度言った。ふつりと沸き立つこの感情こそきっと愛なんだろうな、とからしくないことを考えながら同じように仰向けになった彼へした。バルコニーからは夕陽が見える。ああ、全部赤くなった部屋といえどよく見れば彼の赤面くらいはわかるらしい。至近距離の幸福は、随分とうつくしかったのだ。

TRICKSTER 終

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