窓硝子を割る/アオハル時空



「すみません、予定が入ってしまいまして」
「別に良いが……どうかしたのか」
「奉仕活動です」
 放課後。彼女のクラスを覗き込んだ。今日は生憎の雨だし、またいつかのように雨止みを待っていやしないかと彼女に声を掛けたのだが、返ってきたのは予想外の言葉だった。まあ別に毎日一緒に帰るわけでもないし、今日は特段デートの約束を取り付けていたわけでもない。彼女が謝る道理も無いのだが、奉仕活動とかいう彼女らしからぬ言葉が引っ掛かる。彼女といえば平々凡々、悪目立ちすることは滅多にないし比較的真面目でおとなしい(と教師陣に判断されている)部類だ。そんな彼女が奉仕活動なんてペナルティをさせられるなんて何があったのか。まさか誰かに押し付けられでもしたか。
「同じクラスの子が喧嘩してたんで止めようとしたんですけど」
「ああ、昼休み騒がしかったのそれか」
「聞く耳持たずなので投げたら窓ガラスが割れちゃって」
「すげえパワー解決したなお前……」
 前述の通り彼女はあくまで目立たない普通の生徒。だが少々、頭のネジが外れているところがある。とはいっても他の奴らに比べればマシな部類なんだが、それでもいつも静かな彼女がいきなり暴れたとあれば周囲はかなり驚いただろう。教師陣もこれを機会に彼女の認識を改めたほうが良い。
「そういうわけで、わたしはこれから雑用です。授業で使う冊子の製本をしてきます」
「そうか、頑張れよ」
「ええ。こういう細かいことは大得意なので」
 奉仕活動と言いながらも担任の雑用を押し付けられただけに済んでいるあたり、彼女の罰はまあまあ軽い方らしい。というかこの場合どちらかといえば喧嘩した二人の方が罪は重そうだ。
「……待っててほしいのか」
 そんなことを考えながら、何か言いたげな顔をしている彼女に一言。
「まさか。でもそうして貰えると嬉しいですね」
 決して素直でない物言いに、マスクの下で少しニヤける。今日彼女が案外ヤバい奴だということが周囲に露呈したが、乙女な思考回路をしていることを知っているのは多分おれだけだ。
「傘を忘れてしまいまして」
「家出る前に天気予報見てるか?」

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