今からデートします



「ページワンさん。ここから先三日、暇ですか」
「ん、まあ暇だが」
「なら良かった。今からデートしましょう」
 天井の梁から逆さにぶら下がりながら彼女は言う。デート、と彼女が銘打った以上ドキドキなものなんだろう。命の危険的な意味で。もう彼女の今の体勢については突っ込んだら負けだと思っている。
「行き先は?」
「温泉です。鈴後の旅館なんですけど招待されちゃいました」
「善行が身を結んどる……」
 花の都で人助けをしたらそいつが旅館の女将の兄弟で、お礼にと招待されたとかなんとか。彼女はどういう確率で困っている人に出くわしてるんだか。
「ここから一週間は任務も無いでしょう? 羽伸ばしに行きましょう」
「嫌っつっても引き摺っていくんだろ?」
「はい!」
 別に用事も特になし、彼女の策略的デートコースでないことに驚きながらも了承する。彼女にあらぬ疑いをかけてしまったことを心の中で謝罪しながらふと思う。あれ、温泉ってことは割とおれヤバいんじゃないか。能力者である以上海水が天敵になる。ただの水ならまだ大丈夫だがうっかり沈められたら太刀打ちできねぇぞこれ。いやいや彼女のこの楽しみで仕方ない、という顔を見てもそんな疑惑が? 今回ばかりは信じてやって良い気がする。大丈夫だ、彼女の美学には反するはずだ、温泉での騙し討ちなんて。多分。
「ふふ、楽しみですね温泉。混浴ですからね」
 混浴。ああそうかこの国はそうだった。そうなると違う意味でヤバいな。鈴後ともなれば人も少ない、彼女と二人、なんて可能性もままある。普通におれも男だし、これでドキリとしないわけがない。いや待て。力の抜けたところを介護されるなんて可能性もあるわけだ。勘弁願いたいな、おれの矜持的に。なんとか耐えられるようにしなければ。
 
「うわーんあんまりですー!」
「なんか、悪かったな……」
 まあ、旅館も何もかも嘘で飛び六胞の椅子を狙った真打ちどもの策略だったわけだが。

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