私のかえる場所



「迷子を保護して家まで送っていったらその子の母親が産気づいていたので産婆を呼んだんですけど人手不足とのことで手伝いをしていて遅れました」
「息をするように善行を積んでんな……」
 珍しく彼女が見当たらないなと思ってみればこうだから最早そういう才能じゃないのか、という気になる。これでおれのことを週に十回は殺そうとしてくるんだから善悪の感覚が完全にバグっているらしい。というか自分が海賊なんていう無法者の代名詞みたいな存在って自認はあるんだろうか。確かに黙ってれば割とカタギな見た目はしてるし、余程のことが無い限り頼んでも断らない。彼女の本性はおそらくおれ以外には露見しないんだろうが。
「善き行いをすれば良いことがありますからね。ギャンブルで一山当てたり宝くじで一等前後賞とか」
「善行積む奴そんな願望持たねえだろ」
 まあ冗談ですけどねー、と続ける彼女。そういえば出会った頃に比べれば人間らしくなったように思える。ジョークは変わらず言うが、例えばその後の表情とか。出会った日の晩なんか暗殺者というよりはヤバい怪異でも引き当てたか、と思ったくらいだし。
「君に出会えたという最高級の幸福の代償と思えば安いものですよ」
 こいつは、自分が幸福だと信じてやまないらしい。どこでもやっていける甲斐性と才能があってわざわざ海賊をしているというのに。そんなんじゃ元の世界にも帰れないだろ。彼女に帰る場所がまだ存在してるなら、の話だが。
「お前自分が結構頭茹だった発言してるってわかってるか?」
「もちろん。それで君が釣られた発言をするのを待っています」
 へえ、と適当に相槌を打っておく。素直にそういうことを言われたいと言えばいいのに。なんだかんだでこちらの恋人概念に合わせた行動をしようと彼女なりに努力してくれているらしい。
「思わず発した歯の浮いたセリフって弱みになりますからね」
 この野郎。

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