愛だなんて呼ばないで



 愛してると彼女に言われる。
 そりゃあ恋人という関係上普通にあることなんだろうが、彼女の場合はあまり甘くない雰囲気というか……つまるところ凶器を片手に甘ったるく囁くのである。彼女によれば、最期の瞬間はとびきり淫靡で退廃的でないといけないのだという。だから背筋が粟立ち腰の抜けるような声で彼女は言う。何度も殺されかけてきたが、あれだけは何度経験しても慣れない。だって彼女の表情は、まるで情事中の女のような顔だからだ。吐息に毒を、目元に恍惚を。きっと今彼女は幸せの絶頂にあるんだなあと思わせるそのかんばせにドキリとしない男がいるわけもない。あの顔で縋られたら殺されるのも悪くないか、と一厘ばかりの感情が揺れ動くのだ。
 彼女はつまるところ、トリカブトのような女だ。あくまで見た目は平凡で、それでいて軽く死ねる毒を持ち合わせている。
 美しいと表現するには平凡かもしれないその容姿にあの性格。仮にあの態度が全ての人間に対して適用されていたら簡単に島の一つくらい掌握できただろう……というのはあくまでおれの感想。心底彼女に惚れ込んだ視点からなので、その限りではない。
 一度だけ、彼女にされることをそっくりそのままやり返したことがある。深夜の密室、彼女に馬乗りになって囁いた。本心からというよりは、彼女が好き好んでやるこの行動にどんな快楽が伴うのか気になった。流石に殺人未遂まではしなかったが。おれの力だと彼女をうっかり殺してしまう可能性がある。
 愛してる、と囁いた。あくまで事務的に、けれど呼吸音を含ませて。彼女を食らってやるつもりで噛み付くように言った。流石に俺の方から寝込みを襲われるとは思っていなかったらしく、彼女はしばらくきょとんとして……いつもの調子でけらけらと笑って、明日は槍でも降りますかねぇ、だのと抜かした。悲鳴でもあげれば可愛げがあったのによ。

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