不幸になろう



「君。ちょっと一緒に不幸になってくれませんか」
 あれから彼女はことあるごとにそう言ってくるようになった。別に実際不幸になるわけではなく、少し面倒な雑用からデートの誘いまで多岐に渡る。買い出しを手伝ってほしいとか、甘味を食べに行こうとか、星を見ようとか。つまり彼女は体の良い「暇ですか?」を手に入れたのである。
「今度は何」
「芋の皮剥きを手伝ってほしくて」
「おれ一応幹部なんだが!?」
 今回はどうもハズレ枠だったらしい。というか彼女は着実に厨房での役職を確立していってるんじゃないか。以前まではせいぜいまかない作りだの食材の下処理だのだっただろうに。もう既に小鉢くらいまでは扱わせてもらっているらしい。何なんだよお前は、本当にどこでもやっていける才能があるじゃねぇか。
「今日は暇って聞いたので」
「確かに暇だがよ」
「ちなみに今日の午後うるティさんが帰港します」
 しばし考える。姉貴が帰ってきて仮にこっちが暇していた場合。戦闘訓練だのショッピングだのに連れ出される未来はほぼ確定している。一方で彼女の手伝いをしていた場合はえらい! とめちゃくちゃに撫でられる程度。畜生、交渉が上手くなりやがって。
「味見の権利も差し上げます」
 最終手段、と言いたげな彼女は見事なドヤ顔を披露している。いやおれのことを何だと思ってるんだ。確かに彼女の「毒の心配を一切しなくて良い」手料理が食べられるのは恋人冥利に尽きるが、その条件だけで喜び勇んで手伝いを承諾するほど子供ではない。彼女の中のおれは五歳児か何かなのかよ。
「……厨房か?」
「ええ! 君は器用ですし途中で理性を失って生の芋を片っ端から食べたりしませんからね。助かります」
「前任者それ本当に知的生命体だったか?」
「微妙なところですね」
 物騒な話題はさておくとして。ウェイターズあたりに依頼するわけにもいかなかったんだろう。ほぼ戦力外の雑用とはいえ、あいつらがマトモに雑用をするとは思えない。偏見ってより海賊なんてそんなもんだからだ。おれだって当然そうなんだけどな……というツッコミは飲み込んでおいた。

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