不幸にしていいですか



「ねえ君。わたしと不幸になってくれますか」
 夜の甲板。誰もいないはずだと夜風に当たりにくればいつの間にか隣にいた彼女に声をかけられる。少々大袈裟に驚いてみせながら何が、と返す。彼女はやはりニンジャか何かではないのだろうか。ワノ国を出国して村を作ったニンジャの末裔……なんて言われても疑わないぞ、こっちは。
「よく言うじゃありませんか。病めるときも健やかなるときも……とかいうやつ。幸せになろうと言うよりは不幸でも良いか聞く方が建設的でしょ?」
 そう言いながらも彼女は遠くの水平線を眺めている。どう答えたら良いかわからず考え込むフリをした。考えたってわかりそうもないし、そもそも海賊稼業に将来的な幸や不幸を考えるのはナンセンスだ。
「別に構わねェが」
 というかそれはこっちの台詞じゃなかろうか。一応はカタギだった(自称)彼女を完全に黒の世界に引き摺り込んだのはおれだ。まあおれが無理矢理したんじゃなくて彼女が勝手についてきただけなんだが……自己責任と言うにはちょっと過ぎる。仮におれがただの商人だったらなんら問題ない生活をしていただろう。いや待て、好きだから殺したいなんて言う奴にそんな配慮をする必要があるのか? 無い気がしてきた。彼女の言葉は案外正しいのかもしれない。人生最大の不幸を死とするのならば、彼女はおれを不幸にしたいというのも頷ける。もう何百回と未遂に終わっているわけだが。
「おれァお前がいれば割と幸せだけどよ」
「うわ」
 彼女らしからぬ反応に思わず隣を見る。口元を押さえ、ドン引きですわ……と背後に出ている。何だ、お前だってスイーツな発言だっただろうに。
「わたしは君を殺せないと幸せじゃないですけどね」
「まだおれを殺す気だったんか」
 彼女の言葉にため息を一つ。最近はそこそこ絆されてくれたと思ってたんだがなぁ。残念だ。
 船内は未だ乱痴気騒ぎ。戻る気にもなれないので彼女の頬に触れた。ああもう、どうしようもない女。

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