いちばんぼし



 星が綺麗に見えますよ、と彼女に叩き起こされてみればまだ日没直後だった。
 昨晩から昼過ぎにかけての任務だったので仮眠がてら眠っていたのだが、彼女に起こされては仕方あるまい。日々彼女の傍若無人具合が姉貴に似てきている気がする。二人で話し合いなんかしてるんじゃなかろうか。彼女にも姉貴にもできれば弱みは握らせたくない。当たり前だが。
「一番星ですよ。縁起が良い」
「縁起良いか……?」
 あくびを噛み殺しながら言う。確かに綺麗っちゃ綺麗だが、まだ外は明るい。航海をしていれば満天の星を見る機会も少なくないので、たった一つ薄明に輝く小さな星というのは劣って見える。
「宵の明星、金星ですよ金星」
 そうかよ、と生返事を一つ。彼女も同じ任務に当たっていたはずなのに、なんでそんな元気なんだよ。というか星一つで今までに見たことないくらいにはしゃいでるじゃねえか。
「美の象徴です。戦争の吉兆、主神の成れの果て、太陽の双子なんて話もありますが」
 まあ彼女が楽しそうなら良いか。星については精々方角の基準くらいしか知らない。彼女が一つくらい嘘を混ぜていても信じてしまうなぁとまだ眠い頭で考えている。
「よく知ってるな」
「星はロマンですからね。同じ星を見て各国の人が同じ印象を抱くのかそうでないのか。それを考えると楽しくて」
「お前はどう思う」
「わたしですか?」
 きょとんとして彼女はこちらを見る。別に彼女の知識が嫌というわけではないが、どこかわからない国の神話よりも目の前にいる彼女の感想を聞きたい。あの星を見て、彼女は何を考えたのか。
「そうですね……ちょっと良いことありそうな気がします。君を見かけた日も宵の明星が綺麗でした」
「ちょっとで済むのかそれは」
 彼女の人生を狂わせる予兆じゃないのか。いや一定周期で見えるもんだし、おれと出会った以外は「ちょっと良いこと」程度だったのかもしれないが。

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