撃鉄を起こす
彼女はまた武器の手入れをしている。よく飽きもせず、自分のものでもないのに整備なんかできるものだ……とは思うが彼女は楽しそうにしているので口を出そうにも出せない。
「結構いろんな武器触れるので良い経験になりますよ」
まあそれもそうか。自分の武器だけを弄るよりは新しい発見もあるだろう。彼女は根が真面目というか……まあ目的を前にするとどんな努力も厭わないようなタイプだから、これも良い機会と捉えているんだろう。おれとしてはそんな下っ端のする仕事をさせたくないワケだが。
「体格に合わないものでも、一撃しか使えないものでも。武器として扱えるようにしておいて困ることはありませんからね」
「本当にお前カタギ出身かよ……」
「皆が皆君みたいな強い肉体持ってるわけじゃないので」
かちゃりと拳銃を組み立てていく彼女の手先の器用さに舌を巻く。元々何をしていたのか全く教えてくれないが、もしかしたら何かしらの職人だったんだろうか。海賊の立ち寄る島であれば武器職人もそれなりに多いだろうし。
「ここの海賊団、皆扱いが雑ですからね。おかげでいろんな武器に触れます」
こちらに銃口を向け、彼女は撃鉄を起こす。
「例えば君が気を抜いているチャンスも逃さずに済みます」
「その程度じゃ傷つかねェぞ」
「海楼石の弾丸だったりして」
彼女がトリガーに指をかける。こんな至近距離であるとはいえ、ここまで気の抜けた狙撃で仕留められるような人間ではないのだ、残念ながら。
「ばーん」
オモチャの銃でやるように、銃口を上に向けて彼女はニタリと笑う。
「空です」
「んなこったろうと思った、よっ」
背後の壁にナイフが突き刺さる。彼女がこちらからちょうど死角になっていた左手で投げたものらしい。一番油断したタイミングを狙ったのは良いが、あまりにもわかりやすかった。
「身一つで君を絞め落とせれば良かったんですけど」
溜息を一つ。勤勉なことだよ、本当に。
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