デリートキー



 彼の戦いぶりは、本当に見事だと思う。
 まるで紙でも裂くように簡単に建物を壊して、並の人間であれば尻尾の一払いで塵芥のように散らしてしまう。さながらそういうコマンドだ。大きさというのは最大の武器になる。どんな愚鈍なウドの大木であっても身の丈が山ほどあれば普通の人間は慌て逃げまどうしかできなくなる。ただ日常の行動、例えば歩くだけでも災害に等しい被害を与えることができる。それに加えてタフな動物系、それも古代種。肉食種であればその凶暴性にも磨きがかかる。あまりにも素晴らしい。本能のまま動くだけでここまで綺麗な暴れっぷり。生憎恐竜そのものを見たことはないけれど、こんなのが山ほど暮らしていた太古の昔はさぞ壮観な風景が広がっていただろう。
「次はどこだ」
「南西です。時計塔が見えるでしょう」
 スピノサウルスの姿の彼はいつもより遥かに乱暴で粗雑。それが好きだといえばきっと人間の姿の彼には呆れられてしまうだろう。一口でわたしなんか真っ二つにしてしまえる圧倒的な力。変身している間は特に種族に引っ張られるのか人間性まで変わっている。
「乗るか」
「大丈夫です」
 追いつけないわけでもないですし、と続ければ彼はのしのしと走って行ってしまった。わたしが彼の元に行く頃には破壊は終わっているに違いない。
 そういえば。毎度あの姿の時に彼はわたしを乗せたがる。確かにサイズが異なれば脚力も異なるし、いくらわたしが頑張ったってその差は埋められない。効率を考えれば彼の背に跨った方が良い。あの体躯であれば人間一人程度何も乗っていないのと変わらないんだろう。別に乗りたくないわけじゃない。毎度迷ってから遠慮する。単純に楽しそうだし、その方がわたしだって無駄な体力を使わずに済む。彼の新たな弱点を探れるかもしれないし……ああ、もしやこれは彼なりのボーナスステージなのか。
 そうと決まれば話は早い。今度こそ乗せてもらうとしよう。
 
(できれば傍に置いておきたい気持ちを察しろ馬鹿!)

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