君がいれば、いなければ



「おれがいなかったら、お前はどうしてたんだろうな」
 ふと彼の出した疑問に、はてと首を傾げる。
 ページワンさんと出会わなければ、ではなく彼がいなければ。彼に出会わなかったらと考えたことは数あれど、世界にそもそも彼がいなかったらと想像したことは一度もないように思う。
 もしも彼と出会わなかったら、恐らくわたしは何の変哲もない村人Dくらいで生涯を終えていただろう。うっかり彼と出会ったからここまで思い切ったことになってしまった。後悔はしていないのだけれど、まさか自分が一目惚れ程度で生活の全てを捨てて船に飛び乗ってしまうようなタイプだとは思いもしなかった。
 閑話休題。もしも彼がいなかったら、という話だ。もしも彼がこの世界にいなかったら、わたしは彼と同じような誰かを見つけていただろうか。そうして同じように恋をして同じように殺意を向けて。なるほど、それは確かにありえるかもしれない。でも、今ほど面白くないんじゃないかと思う。彼の代わりになるような人がいたとして、それなりに幸せになったとして。今この世界で他でもないページワンさんと日々を送るわたしよりも幸せになっているとは思えない。もちろん安全なんかとは程遠い日常だけれど、これ以上の幸福を彼以外と歩める自信はない。
「今ほど楽しくはなかったでしょうね」
「……それは殺し甲斐があるとかそういう意味か?」
 呆れた顔で彼は言う。確かにそうかもしれない。でも違う。仮に彼よりも強い誰かを好きになったとしても結論は同じ。
「だって君ほど面白い人はいないと思いますし」
 強いし、殺してもしなないし、何よりそれなりに揶揄い甲斐もある。これを言えば彼からの仕返しに遭いそうなので黙っておくけど。
「『君がいなければわたしもいない。』まあ、答えとしてはこうでしょうね」
 あれ、どうしてそんなに顔を赤らめているんですか。なるほど、これが一等級の殺し文句。にっこりと笑えば彼にぎゅうと腕を握られる。ああこれ、このまま引き倒されるやつですね? 君の方が余程ずるい手段を用いてるじゃないですか。

prev next

back
しおりを挟む
TOP



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -