最果てまで駆けて行け



 君と一緒に死ねるならそれで構いませんよ。
 そんなことを宣う彼女は本当に狂っている。ついでにその後には「わたしが君を殺せるならなお良いのですが!」と元気よく続くのでもう彼女の狂気はおれ一人じゃ対処しきれない。彼女がおれ一人にしか背負わせる気が無い? マジかよ。
 そもそもよく考えてほしい。おれは彼女に惚れている。できることなら真っ当な恋人らしいことをしたい。曲がりなりにも四皇を頭に据える海賊団の幹部なのでマトモな人生を歩めるわけもないし、マトモな人生なんかクソ喰らえと思っているタイプの人間だが、せめて恋愛くらいはノーマルがいい。当たり前だそんなの。殺し合いの中でしか愛を確かめられないとか、殺意の大きさで愛情を測るとか、そういうのはできればご遠慮願いたい。それでも他でもない彼女がそういう女なのでどうしようもない。海賊に惚れる女は悉く気が狂っている、それは確かにそうなんだが。
 もしも、を詰め込んだ世界を夢想する。
 彼女が世間一般の言う恋に従って生きるような女だったら。おれは毎日彼女の殺意を察知してはいなすこともしなくて良いし、何の心配もせずに彼女の手料理を味わうことができるだろう。任務が終われば彼女は笑顔で迎えてくれるだろうし、こちらの頬におかえりなさいとキスをする……確かに理想的だ。理想的ではあるのだが。
 少々、退屈すぎる。
 彼女との生活が平和だなんて、あまりにも違和感が多い。妄想の中の彼女もどこかぎこちない。ノーマルが良い、と言いながらも彼女のアブノーマルなところに惹かれているのは間違いがない。そんな退屈で微温い彼女なんか、つまらない。量産型の良妻的彼女と殺意マシマシの彼女ならば、後者の方が数段マシに決まっている。
 ああもう、彼女にはすっかり感覚を狂わされている。責任を取ってもらうべく、今夜はいつもより激しく殺意を向けてもらいたい。

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