恋も地獄も落ちるは同じ



「地獄ってあると思いますか?」
 彼女は唐突にそう問うた。丁寧に丁寧に、愛用の刃物を研ぎながら言う話題でもないだろうに。
「さあ。死んで戻った奴の話は聞かないからなあ」
 悪魔の実の能力で死後蘇るというものがあるが、そうでもない限り死後の世界なんざ確かめようがない。
「遠い昔地獄に落ちろと言われたのを思い出しまして」
「へぇ?」
 遠い昔、と彼女が前置きをする時は大抵、おれと出会う前の話だ。どこで何をしていたのか明かしたがらない彼女にしては珍しい。まあそれを知ったところで彼女への謎は深まることが多いんだが。
「余程の善人じゃないと地獄行きらしいんですよ」
 嘘を吐いても虫を殺しても、果ては女人というだけで地獄に落ちる。どこかで聞いた話ではある。ワノ国でもそんな親子の会話を聞いたことがあるような。言うことを聞かない子供への脅しだろうが、もしもその通りならば恐ろしい。
「じゃあ一緒に地獄行きだなァ」
「そうですねぇ」
 おれも彼女も絶対に地獄行きだ。地獄は怖い場所だと言われても、この世界にはそれ以上の阿鼻叫喚がある。それを経験したわけでもないが、別に何も怖くないというのが実情だ。二十を超えてもそんなのを怖がっているのは多少どころかかなり人格に問題があるってもんだろうけど。
「じゃあ君と同じだけ罪を犯しましょう」
 刃の輝きを確かめながら言う彼女の笑みに、ああまたこれはヤバい奴に好かれたもんだと改めて思う。地獄の果てまで逃げられそうにない。それどころか地獄でさえも楽園にしてしまおうという彼女の意志には恐れ入る。罰を受ける場も、おれと一緒ならば極楽とでも言いたいらしい。地獄に引き摺り下ろす役目が悪魔なら、きっと彼女ではなくおれが悪魔なのだろう、彼女の中では。
「君と一緒なら楽しいでしょうね」
「全くだよ」
 可哀想に、こんな男に恋をしたなんて地獄行きに決まってる。

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