蛙化現象上等



「蛙化現象ってご存知ですか?」
「いや」
 彼女は困りましたね、と首を傾げる。また何か、海賊団の誰かにいらんことを吹き込まれでもしたんだろう。彼女の元々恋愛方面には疎い点と、比較的素直にものを信じる点が周囲にバレているらしい。おかげで誰かの使いをする度に不要かつ間違っている知識を叩き込まれて帰ってくる。で、それをおれに聞いたりおれで試したりするんだから勘弁してほしい。仮にもおれは飛び六胞、この海賊団でも上から数えた方が早い幹部なんだが。
「いえね。バオファンちゃんに言われまして。『付き合いが数ヶ月にもなると蛙化現象に注意が必要』とかなんとか」
 バオファンか。真打ちではあるもののカイドウ様の連絡係や鬼ヶ島内部の監視を任されている。まあ良い。彼女とはちゃん付けで呼び合う仲なのだろう。悪気があって教えているような奴でもなし。
「蛙ってあの蛙か?」
「でしょうねー。蛙になる……相手の顔を醜く感じる、とかですかね」
 蛙といえば可愛らしい見た目をしているが、一方で世間一般では気持ち悪いと嫌われることも多い。なるほど、彼女の解釈で間違い無いだろう。
「だとしたら心配ありませんね。わたし、生憎君の顔を醜く思うことは未来永劫無いと思います」
 にっこりと笑って言う彼女に返事を探す。まあここは適当に感謝でもしとくか。
「君は今日も、殺人衝動を煽るほどに魅力的な顔をしています」
「そうかよ」
「君はどうです? わたしの顔に飽きましたか?」
 君は三つの顔をお持ちですけどわたしは残念ながら一つですのですぐ飽きるんじゃないかと思うんですけど。そんなことを早口で捲し立てる彼女は恍惚とした顔をしている。ああこいつスイッチが入りやがった。悦楽と同義の殺意が滲みはじめている。
「……飽きるかよ馬鹿」
 渋々口に出した言葉に、彼女は彼女らしくもなく顔を赤らめている。殺意に囚われた彼女はそれ以上の恋愛的甘さでもって対処するしかないとはいえやりすぎたか。というか何だこの空気。ああもう、結局おれハメられてんじゃねえか!

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