姿勢反響



「お前ら似てきたな」
 一升瓶を片手にササキは一言。お前らというのはおれと彼女のことだろう。ササキはにやついているので、こちらを茶化したくてたまらないらしい。
「どこがですか?」
 恐れ知らずなのか何なのか。彼女は即座に聞き返した。ついでに新たな酒瓶を手渡しているので諍う気はないのだろうが、内心ヒヤヒヤする。
「話し始める前に右の口角に舌を出す。腑に落ちないときの目付き。今の顔そっくりだぜ」
 ははは、と酒飲み独特の豪快な笑いをしながらササキは言う。ああもう、ただの酔っ払いかと思えば観察眼だけはしっかりしてるんだから腹が立つ。
「ページワンさんの癖が移ってしまったんでしょうねぇ」
「仲が良いなァ」
 くすくすと笑う彼女の声。馬鹿にされてんだよ、と真っ当なことを言えば更に茶化されるに決まっているので口をつぐむ。彼女がそれをわかっていないなんてありえないのだが、それでも彼女はにこにこといつものよそいき笑顔で酌などしている。何が楽しい、というかお前はおれの恋人という立ち位置だろうが。いやそういうのはどうでも良くて。
「……来い」
 ぐ、と彼女の手を掴む。逃げは逃げでとやかく言われるのだろうが、ここで波風立てるつもりもない。
「うわはは、今の顔もそっくりだぜ」
 楽しそうに笑うササキの声を背後に障子戸を乱暴に閉める。大人しく小脇に抱えられている彼女は何故か上機嫌だ。また酒でも飲んだのか、弱いのに。
「ふふ、嫉妬ですか」
「……あのなァ」
「互いの信頼度が一定以上でないと、癖は移らないそうですよ」
 それでこいつは嬉しそうなのか。そもそも癖なんか無自覚の極みなので、どれが俺の癖、なんてわからないのだが、まあそれはそれで。
「わたしも一つ見つけたんですよ。戦闘中鼻血を舌で拭う癖。あれわたしの癖です」
 そういえば。彼女らしからぬ粗野な癖だなとは思って注目していたのだが、まさかそれが移っているとは。いやこんな冷静に分析する話でもない。

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