さあ、笑って!



「ページワンさん、人間の姿だとあんまり笑いませんよね」
「問題があるか?」
「ワライダケでも盛ろうかと思いまして」
「馬鹿の解決方法だそれはよ」
 うーん、と顎に手を当てて考える素振りを見せる彼女。おれが笑おうと笑うまいと特に何も影響はないだろう。それでもまあ、人間態じゃああまり笑わないかもしれない。獣態では恐怖心を煽るために無駄に高笑いなんかするが(そもそも能力のせいで変身すると気性が荒くなる)。
「マスクしてるからだろ」
「わたしは君の笑ってる顔が見たいです」
「なんでまた……」
 わくわく、と目を輝かせている彼女。いやマスクをずらし口元を露出させるまではしたが、何もないのに笑え、と言われて笑えるほど役者向きではない。というか笑いにもいろいろあるだろうに。馬鹿笑いするのか、微笑むのか、嘲笑か。その指定がないのに適当に下手な演技をやって彼女にブーイングを喰らうのは勘弁したい。
「それを言うならお前も笑わねェだろ」
「じゃあ笑わせてみてください」
 彼女はドヤ顔で言う。彼女は普段微笑みはするものの、声を出して笑うと言うのがあまりない。飛び六胞に一発芸でもさせたいのか。残念ながらギャグセンスは無い、滑り倒すのが目に見えている。となれば取る方法といえば。
「ページワンさ、っひ、あっははは、ちょっと、それは、ひゃ」
 もう擽るしか思いつかない。子供っぽいことは百も承知だが、がばりを彼女を押さえ込んで脇腹を擽れば彼女は簡単に笑う。もう普段の彼女からは想像もつかないくらい下品に、大声で。いつもしてやられてばかりだから、今日くらいは構わないだろ。身を捩るせいで笑っている顔があまり見えないのは残念だが。
「普通に笑えんだな」
「人を何だと思ってるんですか。普通の人間ですよ」
 息を無理矢理落ち着けた彼女に、今更ながらああこれちょっとまずかったか、と思わなくもない。赤い頬、涙の浮かんだ瞳、荒い息。完全に事後だもんな、これ。

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